【ご相談内容】消滅時効期間の計算及び相続放棄について

父が亡くなって、10年経過しましたが、突然、某債権回収会社から、通知が来てました。

住宅ローンの残債務があるので、相続人として、その支払いをしてもらいたい、とのことでした。

早速、こちらの通知に記載のある電話番号に電話をして、事情を聞いたところ、

実は、父は、数年前に債務整理をしており、その際に、家を売却してその売却代金を住宅ローン会社に支払ったのですが、その支払いだけでは住宅ローンの残債務には足りず、残りの残債務をどうするかを父に検討してもらっているうちに、父が亡くなってしまったとのことでした。

しかも、遅延損害金を入れると、支払うべき金額は何百万円にもなるとのことでしたが、

「とても、そんなお金は支払えません。」

というと、

「月々、すごい低い金額、例えば、1万円の分割払いでも構いません。」

とか、

「遅延損害金はカットしてあげても構いません。」

とか、

「まずは、『債務承認弁済契約書』にサインをしてくれれば、支払い方法は追々、一緒に考えましょう。」

などと、割と親切な提案をしてくれるので、今度、印鑑をもって、その債権回収会社に訪問しようと思っておりました。

ところが、知り合いにこの話をしたところ、

「今からでも、相続放棄をした方がいいのではないか?」

と言われたので、相続放棄を調べたところ、相続放棄は、父の死亡から3か月以内にしなければならないとのことでした。

もう、今更、相続放棄はできませんよね?

【ご回答】~弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明~        

相続放棄の前に消滅時効の検討

今まで、何故その債権回収会社が放っておいたのかが分かりませんが、まず、検討すべきは、消滅時効です。

消滅時効とは、一定期間、債権者がその請求を放置した場合に、その債権(債務)が消滅してしまうことをいいます。

それで問題になるのは、その「一定期間」がどれくらいの期間であるかということですが、それは、貸主ないし借主が、商売として、金を貸したり、借りたりしているかによります。

例えば、貸主が、銀行や信販会社である場合には、それらは、商売として金貸しをしている者、すなわち、「商人」であるため、貸付金の消滅時効は5年になります。

ところが、これもおかしな話だと思いますが、住金、つまり、住宅金融支援機構とか、信用金庫の場合には、これらは、商売として金貸しをしているのではなく、

「商人」

ではないとされているのです。

ただし、借主が商売として金を借りている場合であれば、やはり、借りる側は、

「商人」

であるため、その場合も消滅時効期間は5年になります。

ですが、住宅ローンの場合には、その性質上、借りる側が商人であることはあり得ませんので、もっぱら、貸す側が「商人」であるかだけが問題となります。

また、住宅ローンの場合には、多くは、保証会社がついており、保証会社が代位弁済をした場合には、その代位弁済をした時点から消滅時効が進行します。

通常は、半年間、住宅ローンの返済が遅滞した場合には、すみやかに、保証会社による代位弁済がなされます。

ですので、例えば、住宅ローンの返済が遅滞していたけど、なかなか、代位弁済がなされず、消滅時効ぎりぎりの期間になって、ようやく、代位弁済がされるおということはありません。

銀行もいつまでも、保証会社から保証してもらわずに(お金を受け取らずに)放置するということはないのです。

つまり、住宅ローンが遅滞して半年後に、代位弁済がなされれば、そこから10年間たてば消滅時効にかかりますので、全体としては、10年6か月で消滅時効にかかる筈です

また、債権譲渡と言って、金融機関が、債権を債権回収会社に売り飛ばしてしまうことがあります。

そうすると、債権譲渡がなされたときから5年間立たなければ消滅時効にかかるのではないかと心配になりますが、この場合には、債権譲渡がなされたときから、消滅時効がカウントし直しになるのではなく、債権譲渡の前後を通じて消滅時効期間は通算されます。

ということで、本件の場合には、5年ないし10年の消滅時効期間が経過している可能性が高いです。

5年であれば余裕で期間が経過しています。

消滅時効の中断

しかし、通常の場合には、お金を貸した金融機関も、消滅時効期間が経過するのを何もしないまま手をこまねいてみているわけではなく、消滅時効を進行させないための措置を講じます。

それが訴訟{裁判}です。

訴訟が提起されて、判決が確定すると、そこから10年間さらに消滅時効がカウントされることになります。

ですので、そのあたり(訴訟は起こしましたか?)も金融機関に問い合わせてみる必要があります。

そして、消滅時効の進行を妨げるもう一つの方法は、債務承認です。

要するに、債務者に、

「確かに、債務が現存していることに間違いありません。」

と認めさせれば、そこから、また、消滅時効がカウントされます。

・『債務承認弁済契約書』にサインをする行為や、

・一部でも、債務を返済する行為が、

「債務承認」に該当します。

もう、お分かりだと思いますが、あなたに連絡してきている、一見、その親切な担当者の方は、あなたに、「債務承認」をさせて、消滅時効を中断したい(カウントをし直したい)可能性が高いです。

時効が間際なのかもしれませんね。

なお、相続放棄についても、3か月をとっくに過ぎてしまってはいますが、財産に手を付けているなどの事情がなければ、相続放棄が認められる可能性も高いと思います。

いずれにせよ、本件は、弁護士に相談ないし依頼した方がいいと思います。

※消滅時効と民法改正について

債権の消滅時効は権利の行使ができる時から5年間とする改正がされました。

あわせて、商法の消滅時効の規定が削除され、債権の消滅時効は、民法に一本化されました。

そして、その民法の条文上、「債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき」と定められているのですが、「債権者が権利を行使することができるとき」とは、貸金の債権等については、金銭消費貸借契約等で定められた支払期日を意味します。

要は、支払いをしなければならないのに、その支払いをしないでいると、本来の支払から5年の経過によりその債権は消滅時効により消滅するというわけです。

保証協会からの請求か、信用金庫からの請求か、等は、今後は気にせずに5年と覚えておけばよいのですが、注意すべきは、その債権の発生時点が、民法改正が実施される2020年4月1日よりも以前の場合には、それまでの旧民法が適用される点です。

判断が難しい場面が生じたら、何か行動を起こす前に弁護士に相談した方がよいでしょう。

ちなみに、本件の場合には、民法改正前のお話になるので、旧民法に従って、消滅時効を判断する必要がございます。