【ご相談内容】生命保険金受領と相続放棄の可否

確認といいますか、そもそも、初歩的な勘違いをしているのかもしれませんが質問です。

1か月前に父が亡くなりました。

父には、多額の借金があると姉から聞かされております。

他方、父が知り合いの生命保険の外交員さんとのお付き合いで、父自身に生命保険を掛けておりました。

しかし、私は次女で、もう一人長女(姉)がいるのですが、私だけが受取人になっており、私にだけ死亡保険金が入ることが分かりました。

姉からは、

「父には借金があるから相続放棄した方がいいと思う。」

「死亡保険金は遺産には含まれないから、相続の対象とならない。」

「だから、相続放棄をしても死亡保険金を受け取ることはできる。」

と言われました。

ところが、税理士さんからは、

「死亡保険金は、遺産を取得するのと同じで経済的利益を取得するのだから、相続財産です。」

「みなし相続財産ということで、税金もかかります。」

と言われてしまいました。

結局、死亡保険金は、相続財産になるのか、ならないのか?

死亡保険金を受け取っても、相続放棄できるのか、できないのか?

これについて教えてください。

それから、法定相続人は私と姉の2人ですが、姉から相続放棄をずっと勧められていたので、

「私は相続権を放棄するけど、手続が分からないのでお姉ちゃんが全部やって!」

と言ってしまいました。

そうしましたところ、昨晩、姉が覚書を持ってきまして、それを見たら、

【姉が全部相続する】

という内容の覚書になっており、私にサインを迫ってきました。

ところが、その覚書を見ると、確かに借金もありますが、それは父が購入したアパートローンであり、知り合いに見てもらったら、そのアパートはローン以上の金額で売れる可能性もあるということなのです。

ただ、私は、もう、姉に相続権を放棄するとは言ってしまいましたし、その旨のメールも送ってしまいました。

もはや、遺産は、全部、姉のものになってしまったのでしょうか?

【ご回答】~弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明~

生命保険契約上の受取人確認が重要

生命保険の保険金受領と相続放棄に関しては、

「生命保険金の受取人が誰であるか?」

という点が重要です。

1)死亡保険金受取人=保険契約者・被保険者本人

死亡保険金の受取人が保険契約者・被保険者である本人そのものである場合

この場合には、法律上は、保険契約者・被保険者=被相続人に保険金が支払われて、そのお金を相続するという流れになるので、保険金を受け取ることは、相続するということになり、相続放棄はできないことになります。

2)死亡保険金受取人≠保険契約者・被保険者本人

死亡保険金の受取人が保険契約者・被保険者である本人以外の氏名になっている場合(例えば、保険契約者・被保険者が加茂太郎で、受取人が加茂福子の場合)

この場合には、法律上は、保険契約により、直接、保険会社から受取人である川越福子に死亡保険金が支払われるので、その死亡保険金は遺産や相続財産ではないため、相続は関係がなく、相続放棄はできる、ということになります。

3)死亡保険金受取人=「法定相続人」

死亡保険金の受取人が保険契約者・被保険者である本人ではないものの、受取人として「法定相続人」となっている場合(例えば、保険契約者・被保険者が加茂太郎で、受取人が「法定相続人」として具体的な個人名が指定されていない場合)

この場合には、「法定相続人」などと書いてあるため、「相続」によって死亡保険金を受け取るように思えますが、「法定相続人」というくくりで、被相続人(保険契約者・被保険者)が、死亡保険金を支払ってやってほしい、という人をグルーピングしただけで、相続財産とは関係ない、とされております。

そういうわけで、この場合でも、死亡保険金を受領したとしても、相続放棄をすることは可能です。

死亡保険金の相続税計算上の取扱い

また、受け取った死亡保険金が相続財産とみなされず、相続放棄できる場合であっても、税金(相続税)の計算の問題は、また別個である、ということが理解を難しくしているのです。

被相続人が亡くなってその法定相続人が生命保険金を受け取った場合、死亡保険金が、相続における相続財産には含まれない場合であっても、経済的な利得を取得することは、相続財産を取得したのと変わらないので、「みなし相続財産」として相続税が課税される扱いになっているのです。

「なあんだ、せっかく相続放棄をして、相続税も課されないと思ったのに。」

「死亡保険金にも相続税が課されるなんて残念だなあ。」

と思われますか?

そもそも、相続財産として扱われないとすると、生命保険金の取得は、「一時所得」として「所得税」、ないしは、「受贈金」として「贈与税」の対象となるはずです。

全く、税金がかからない場合はありません。

しかも、相続税として扱われるということになりますと非課税枠もあります。

(3000万円+相続人の人数×600万円=相続税の非課税枠)

ですので、相続税の対象になると言っても、相続税を計算したところ、納めるべき相続税はないということもあり得ます。

ですから、相続税の対象になることと、相続税を納めなければならないことを混同しないようにしてください。

遺産がらみの不用意な発言は禁物

あまり、不用意な発言はしない方がよかったですね。

遺産をめぐる当事者(相続人)同士の話し合いで、ラチがあかないときに、言った言葉や交わした書面によって、トラブルがよけいに悪化することがあります。

せめて、依頼とまではいかなくても、弁護士に相談ぐらいはしておけばよかったと思いますが。

ただし、ご安心ください。

相続放棄は決まった手続きによらないといけない

相続放棄というのは、やり方が決まっており、その手続きは裁判所に対して書面で行うものとされています(民法938条)。

ですので、あなたのお姉ちゃんに対する相続放棄は有効なものではありません。

したがって、今更ですが、

 「あの時は、ついイラっとして、あのように言ってしまったけれども、『相続権を放棄』という私の言葉は、本心ではなかった・・・・・」

とか、言って、改めて、相続放棄はないものとして遺産分割の話をすることができます。

もちろん、お姉ちゃんは、

「はい。そうですか。」

とは言わないと思います。

「メールで遺産はいらない旨の(遺産分割)の合意はできている」

と言ってくるかもしれません。

ですので、代理人、要するに弁護士を付けて、そっちから言ってもらうことも検討した方がいいかもしれません。

今後の話し合いが難しそうなら代理人を立てる

このままでは、少なくとも、以前の状態に逆戻りになるだけですし、また、不用意な発言をして、事態をこじられるかもしれません。

もちろん、弁護士をつけるぼどの遺産の額ではない、というのであれば、それはそれでもよいですが、今後の対応は慎重にしてください。

遺産分割は、通常は遺産分割協議書を作るのですが、別に、この遺産分割協議書という形にしなければならないという決まりはないのです。

極端な話としては、口頭でのやりとりでも遺産分割は成立するのです。

ただ、不動産が絡みますので、法務局は口頭で遺産分割が成立しているというだけでは受け付けないでしょう。