【ご相談内容】相続分の譲渡のメリットとリスク

非常に面倒な相談で申し訳ないのですが、今、迷っています。

15年前に、父と母は離婚し、私は、母とともに母の実家に帰り、母の実家で母に育てられました。

父のことは覚えておりますが、お金にだらしないことで、母に散々迷惑というか苦労をかけたので、私は、父には離婚後、会おうとしませんでした。

父からも会いたいなどとは言ってきませんでした。

その父が死んだそうです。

正直、何の感慨も湧きません。

親族からは、

「離婚したとはいえ、あなたにも半分、お父さんの血が流れているので、複雑なお気持ちでしょう」

などということを言う人がいますが、

全く、何の感慨もありません。

ですが、その亡くなった父は再婚していたらしく、その再婚相手から、しきりに相続放棄を求める連絡が来ています。

財産としては、自宅と広大な農地があるそうです。

相続放棄してほしいということは、その家に住みながら引き続き農業でもやりたいのでしょうか。

私は、一切、そんな財産など興味もないし、その父の再婚相手にも会う気がしないのですが、他方で、

「財産放棄してください」

と言われて、

「ハイ、そうですか。」

と言いなりになるのも嫌です。

そういう意味では複雑な気持ちではあります。

どうしたらよいでしょうか?

【ご回答】~弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明~

関係を断つには相続放棄が一番

すっぱりと関わらないようにしたい、煩わしいことと縁を切りたいというのであれば、相続放棄するのが一番です。

それで何のかかわりもなくなります。

ですが、それが再婚相手から言われて、それに従って相続放棄する、というのが感情的に引っかかるんですよね。

それもよく分かります。

そこでですが、ご提案として、

「相続分の譲渡」

というやり方があります。

相続分の譲渡とは

「相続分の譲渡」とは、相続財産の中の特定の預金だとか土地だとか家だとかの財産の所有権を移転するわけではなく、その相続人の法定相続分の譲渡、例えば、被相続人○○の法定相続人としての相続分を譲渡すること、を言います。

タダで譲渡してもよいですし、有料で譲渡しても構いません

譲渡する相手も他の相続人でも構いませんし、全く、親族関係のない第三者であっても構いません。

相続についての係争に関わりたくないという方が、たまに、この「相続分の譲渡」という形をとります。

他の相続人に対して「相続分の譲渡」をする場合には、それは遺産分割の1つの形態ということができます。

ですが、赤の他人たる第三者に対して「相続分の譲渡」をする場合には、それが無償であれば贈与になりますし、有償であれば売買になります。

ですので、無償であれば贈与税の問題が生じますし、有償であれば譲渡所得税の問題が生じます。

ですが、それは税金の問題ですので、あなたにとってマイナスになることではありません。

つまり、相続放棄をすれば絶対にゼロですが、「相続分の譲渡」の場合にはゼロもしくはそれ以上ということになります。

「相続分の譲渡」のリスク

ただし、相続放棄と異なり注意すべき点は、負債です。

もし、負債がある場合には、たとえ、「相続分の譲渡」をしても、承継できるのはプラスの財産だけで、負債を移すことはできないので、もし、亡くなった被相続人に負債があった場合には、相続放棄をしないままだと、請求があなたに回ってくるおそれがあります。

そのあたりをよく踏まえて、あなたの感情の処理の問題と、リスクとメリットと、比較考慮して最終決断をしてください。

相続分の譲渡と農地法3条1項の許可

少し難しい話になりますが、農地の移転の場合には、原則として農地法3条1項により農業委員会の許可が必要です。

しかしながら、例外的に、遺産の分割、財産分与の場合で移転される場合には、農業委員会の許可が不要とされているのです。

それでは、「相続分の譲渡」の場合には、遺産分割ではないので、やはり、農業委員会の許可が必要となるのでしょうか?

この点については、従来は、法務局が必要としていたのですが、その法務局のやり方をおかしいと争った裁判がございます。

そして、判決では、

(1)共同相続人間で相続分の譲渡がされても、持分割合が変化するだけで、譲受人たる相続人の地位は相続によって取得した地位と本質的に異ならず、これに伴い個々の相続財産の共有持分が移転するのであり、そのことはすでに相続の登記がされていたか否かにより左右されないこと、

(2)農地法三条一項は、相続による権利承継およびこれに準ずるものについては、それが望ましくないものであっても規制を差し控えているものと解されること、

(3)農地が含まれているか否かを問わず、共同相続人間で相続分を譲渡すること自体は規制されておらず、これに伴い個々の不動産の持分移転が生ずるのは相続による権利移転と同様の関係であり、共同相続人に農地についての権利が移転すること自体は農地法三条一項の是認するところであるし、相続分の譲渡は遺産分割までの暫定的な権利移転であって、遺産分割には許可を要しないとされていること、

にかんがみれば、共同相続人間においてされた相続分の譲渡に伴って生ずる農地の権利移転については、同項の許可を要しないと解するのが相当であると判示しました。

そして、すでに相続の登記がされた農地につき「相続分の贈与」(相続分の譲渡)を原因としてされた持分移転登記の申請に対し、許可書の添付がないことを理由にこれを却下した本件処分は、違法とされたのです。

つまり、裁判所は法務局に対して、それまでの登記実務を改めるように命じたという事になります。

従いまして、あなたと後妻さんは、共同相続人でありますので、共同相続人間の相続分の譲渡については、やはり農業委員会の許可は不要という結論になります。