亡き父親名義の不動産に父の交際相手が居住してる場合について

不法占拠及び立ち退きのイメージ

単なる交際(同棲)相手か内縁か?

異性と同居したからと言って、すぐにそれが「内縁関係」である、ということにはなりません。

別に、シェアハウス・ルームシェアのように本当に居住空間をシェアしているだけの場合が内縁にあたらないのは当然ですが、本当に交際はしているという前提でも、同棲と内縁には大きな違いがあります。

内縁の成立要件

内縁関係が成立していると認められるためには、

夫婦関係を成立せしめようとする合意

夫婦共同生活の存在

が双方、揃っていなければなりません。

ですが、この要件も抽象的ではっきりとした基準ではありませんよね。

夫婦共同生活の存在

婚姻届けを提出していれば、それは本当に夫婦だという事なのですが、婚姻届けを出していないにもかかわらず、なおも夫婦と言える関係とは何であるのかは、なかなか難しい問題です。

毎日、一緒にご飯を食べているとか?

双方の家計が一緒であるとか?

別に、ご飯を一緒に食べていなくても夫婦関係がないということでもないでしょうし、

家計が別々の夫婦も、特に最近では珍しくありません。

かなりの長期間一緒に暮らしているとか、

公的な行事(冠婚葬祭)に一緒に出席しているとか、

そのような要件が一般的には必要とされていますが、本当に、個別判断にはなります。

長期間でも内縁が必ず認められるとも限りません。

ただ、単なる同居・同棲ではなく、何らかの生活感と一定程度の時間の経過は必須です。

夫婦関係を成立せしめようとする合意

こちらについては、当事者の気持ちの問題ですので、

「本当に結婚しようと思っていたんです」

「紙(婚姻届)はなくとも私たちは夫婦でした」

と言われれば、それ以上に外部から何か言いようがありません。

ただし、外に向かって、

「単に、同棲パートナーです」

「その方が生活費が安くつくから」

「結婚なんて全く考えてません」

などと言っていたのであればそれは内縁関係の成立を認めない方向に働くでしょう。

内縁関係が認められる場合

内縁であるということになると、相続人からの不動産の明け渡し請求ないしは立ち退き請求が認められない場合があり得ます。

このケースについては、いくつか判決があり、

被相続人と内縁相手との間に使用貸借の合意が存在した

または

相続人から内縁相手への立退き・明渡し請求は権利濫用に当たる

として、相続人からの請求が認められない場合がほとんどです。

もちろん、内縁関係が成立していることが前提です。

内縁関係が認められる場合に相続人ができること

第三者に売却

仮に、内縁関係が認められ、相続人との関係で使用貸借が認められたとしても、相続人以外の第三者は、その使用貸借上の義務を負うわけではないので、第三者は立ち退きや明け渡しを求めることができるのが原則です。

ただし、例外的に、当該第三者が立ち退きや明け渡しを求めることが権利濫用にあたるとか、少なくとも、立ち退き料の提供が必要であるという場合もあります。

賃料の請求

使用貸借契約が認められる場合には、そもそも「使用貸借」自体が「タダで貸す(借りる)」契約でありますので、賃料を請求することはできません。

他方、使用貸借までは認められないけれども、立ち退きを求めることが権利濫用にあたるという場合には、タダで済む権利まではその内縁相手に認められるわけではないので、賃料を支払ってもらうことができます。

ただし、この点は慎重に考えるべきポイントで、一旦、賃貸借契約が成立してしまうと、ご存知の通り、たとえ、将来的に第三者に売却されたとしても、賃貸借は継続します。

つまり、お家賃を受け取るという事は、相手方に賃貸借上の権利を認めることにもなりますので、本当に、その形がいいのかどうかは、今後のことも含めてよく相談した方がよいです。

内縁関係が認められない場合

内縁に至らず単に同棲の場合、あるいは、単なる知人・友人の場合等には、当該相続不動産物件に住む権利が認められませんので、出て行っていただくようお願いします。

中には、

「実は、家賃を前払いしております」

「とても親しい友人でずっとタダで住んでいいと言われました」

等々を言ってくる方もいますが、その場合には、すみやかに訴訟(裁判)を起こした方がよいと思います。

実力行使はペナルティがあり得る

「こんなの不法占拠なんだから鍵を変えてもいいですよね」

「出て行けと言う大きな張り紙を張ろうかと思って」

等々、エキサイトされる方がいらっしゃいますが、絶対にやめた方がいいです。

ご自身に対して、逆に、損害賠償請求されるなどのペナルティがあります。

自力救済の禁止

たとえ、相手が明らかに不法占拠者であっても、法的な強制執行等によらないで直接の実力行使をすることは、禁止されています。

これを「自力救済の禁止」と言います。

「そんな裁判だ、強制執行だと言っていたらまた金がかかる」

と言われるのが常ですが、その通りです。

金がかかるのです。

でも、金をかけないで実力行使をすると、ご自身が損害賠償の請求を受けたり、場合によっては、警察に被害届を出されて刑事事件になります。