【ご相談内容】

母が亡くなったのですが、住まいも借家でしたし、継ぐべき遺産もないので、放っておこうとも思っていました。

ところが、悩ましい問題が出てきてしまいました。

1)多分、本人も亡くなる前は新潟の病院の入退院を繰り返していて気付いてなかったのだと思いますが、健康食品の継続購入を解約するのを忘れていたようで、結構な金額の請求書(督促状)が書類から出てきました。

ただ、その健康食品自体がどこにあるのかが分かりません。

母は新潟の病院にいるときは病院食で、家に戻ってきたときは私たち夫婦の家に連れ帰って面倒を見ていたので、健康食品をとるなどということはなかったはずです。

2)それから、母の死亡共済金のお支払いのご案内というのが来たのですが、これを受け取ると相続放棄ができなくなるのかも気になります。

3)また、私は、新発田の家を母から生前にもらっております。

たしかに、母の面倒をずっと最後まで看たのは、姉夫婦だし、もっと何か遺産が欲しいというわけでもありません。

姉には、

「遺産は全部、放棄するよ」

と言ったところ、遺産の放棄の書類を送ってきました。

そのタイトルが「遺産分割協議書」となっている書類を見ると、

「三 高田一美(仮名)は、生前に被相続人 高田はな(仮名)から不動産の贈与を受けているため、遺産を放棄するものとする。」

と書いてありました。

私が生前に新発田のマンションをもらったことを、わざわざ書いている点が気になりますが、何か、裏はないでしょうか?

別に、単に「高田一美(仮名)は、遺産を放棄する」

ではダメなのでしょうか?

何も落とし穴がなければ、このまま、サインしようかなとも思うのですが、いかがでしょうか?

【ご回答】~弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明~

考えられる負債・債務と相続リスク

その健康食品の支払代金もそうですが、そのように入退院でぐちゃぐちゃしていてどんな料金が未納になっているか分かりません。

NHKとか、新聞代とか、大丈夫ですか?

大きな金額でなければよいですが、ひょっとするともらった死亡共済金よりも、支払代金の方が多くなるかもしれません。

それに、その健康食品の定期購入プラン等で、途中解約ができない、ないしは、途中解約すると違約金が発生するような契約もあり得ます。

そうでないかもしれませんが、そんなのあれこれ調べているより、相続放棄した方が楽だし、早いです。

借家についても、どのような費用が発生するか分かったものではないです。

共済金の受取人ならば相続放棄とは無関係

まず、死亡共済金の受取人をよく確認してください。

おそらくは、あなたの氏名ないしは「法定相続人」となっているでしょうから、そうであれば受け取っても相続放棄は可能です。

ですので、そのことを気にせずに、相続放棄はした方がいいでしょう。

遺産分割協議書に「放棄する」と書くだけではダメ?

遺産放棄と「相続放棄」は違う

まず、前提として、遺産を放棄する、とおっしゃっていますが、「相続放棄」は、遺産分割協議書で、相続の取得分をゼロにすることとは大きく異なります。

相続放棄は、相続人としての地位を放棄することですので、相続財産も取得しないですが、負債(債務・借金)も取得しません。

他方で、遺産分割協議書で、「遺産を放棄するものとする。」としても、負債(債務・借金)があった場合に、その部分は相続してしまいます。

負債を放棄すると書いてもダメ

だったら、「遺産も負債も放棄するものとする。」とすればいいのか?

というと、それでも駄目です。

相続放棄は、裁判所に対する申述という形で行います。

相続人間で、「お前は借金があっても相続しなくていいから」と約束しても駄目なのです。

逆に、考えれば分かると思いますが、それを相続人間で勝手にやれてしまうとすると、債権者から見て、相続財産だけが一部の相続人に寄せられてしまい、負債が別の相続人に寄せることができてしまいます。

せっかく、相続財産から債権を回収しようとしても、その相続財産をたんまりもらった相続人から、

「俺は、相続財産はもらったけど、借金は負わないことになっているんで」

と言われてしまえばお終いです。

債務は法定相続分に応じて承継

ですので、相続放棄をしない以上は、債権者はすべての相続人にその法定相続分に応じて、負債を請求することができるということになっているのです。

生前に新発田の不動産を贈与してくれるほどのお母様なので、カード会社や消費者金融からの負債(債務・借金)などの心配はないのかもしれませんが、どうせ、何ももらわないのであれば、相続放棄をしておくに越したことはないと思いますよ。

それから、

「生前に新発田の不動産をもらったことを、わざわざ書いている点 が気になる」

ということですが、おそらく、それは、あとで心変わりして、やっぱり遺産が欲しい、と言われたくないという感情的なものだと思いますよ。書こうが書くまいが法的効果は変わりません。