【ご相談内容】住宅資金特別条項の適用要件と養育費の支払い
個人再生に関して、私と似たような質問をしている方がいましたので、私も質問させていただきます。
私も新潟県新潟市在住で、私自身は、賃貸マンションならぬ安アパートに住んでおり、別れた妻と子供2人は、同じ新潟市内ではありますが別の場所でマンションに住んでおります。
新潟家庭裁判所で調停もやりましたが、それでも話が全く折り合わないので、結局、新潟家庭裁判所で離婚裁判もやりました。
その裁判の途中で、裁判官から、このまま裁判を続けていても、私に勝ち目はない、と言われました。
判決がでれば、養育費も支払わないといけないし、慰謝料も支払わなければならない、払わなければ給与の差し押さえになる、とも言われました。
私は何度も言いました。
私は不動産関係の仕事をしておりますが、前年度の年収が多かったのは、たまたま、大きな案件をとれたからで、前年度の年収をもとに計算されても、そのような莫大な養育費は支払えない、と訴えました。
どうしても支払えというのであれば、もう、破産するしかないと、とも言いました。
ですが、裁判官からは冷たく、
「破産しても養育費は支払い続けなければならない」
と言われてしまいました。
私も、もうやけくそで、
「だったら、借金して支払い続けます!それでも駄目な場合には破産しますんで、あとは知りません!」
と言いましたが、全く裁判官には響きませんでした。
しかも、
「慰謝料を支払う金もない」
と述べたところ、こういう内容の和解になりました。
養育費が20万円。
ただし、私名義で妻子が住む家の住宅ローンを支払う限りは、その住宅ローンと相殺することができる。
住宅ローンが終了した場合には、妻に2分の1、子供に4分の1ずつ名義を移転する。
慰謝料はなし。
本当に借金してやりくりしてきましたが、案の定、借金が600万円にまで膨れ上がってしまいました。
しかも、勤務先である不動産会社の社長が、とある不祥事を起こしてしまい、会社は解散となりました。
別の不動産会社に移籍しましたが、給与は激減しました。
それで、妻には、現状を話して、今まで頑張ったんだけど、もう回んないから、自己破産する、と告げました。
そうしましたら、
「それは困る」、
「母子家庭では家を借りるのも難しい」、
「自己破産はやめて」、
「せめて家を残せる民事再生とか個人再生にしてほしい」、
「その代わりローンが終了した場合には、子供にだけ名義を移転してくれればよい」
と言ってきました。
どうでしょうか?
多少、私もそれならローンを支払いし続けるインセンティブが湧いてきますが、そんなことはそもそもできるんでしょうか?
【ご回答】~弁護士(新潟市・新潟県)から~
離婚した妻と子供が住んでいる家に住宅資金特別条項が使えるか
自己破産ではなく、個人再生を選択すれば、住宅資金特別条項というものが使えるので、住宅ローンを支払いながら家を確保することができるというのが原則です。
ただ、住宅資金特別条項というのは、そもそもが、借金で苦しむ人がその再生を図る際に、住むところがなくなってしまうと、家計の再生を図ることが難しい、というところから、 認められております。
居住の確保というのが、この住宅資金特別条項の趣旨です。
ですので、住宅資金特別条項を利用するためには、その住宅ローンの対象となっている家に、個人再生を申し立てた本人が住んでいなければならない、という要件があるのです。
今のケースですと、住んでいるのは、あなたではなく、元妻と子供です。
ですので、一見すると、住宅資金特別条項を使える余地はないように思えます。
離婚した妻と子供が住む家の住宅ローン債権者と別除権協定を締結する方法
住宅資金特別条項が使えない場合には、債権者に対しては、債権者平等の原則が働きますので、一部の債権者に対してだけ支払いを継続するということは許されません。
ですが、別除権協定といって、住宅ローンの債権者との間で、 例えば、 個人再生を申し立てた後も、従前どおり支払っている限りにおいては、一括弁済を求めたりしないという協定を締結することができます。
ただし、別除権協定を締結しても、それに基づく支払いについては、それが共益債権という債権に該当しない限り、支払いが認められません。
そこで、今回のケースでの支払いが共益債権に該当するかが問題となります。
養育費債権の共益債権該当性と養育費代わりの住宅ローンの支払い
前提として、養育費の支払い自体については、「共益債権」として、支払が認められているので、逆に言えば、請求されれば、個人再生を理由に支払いを拒むことはできません。
ちなみに、養育費の債権が「共益債権」にあたるとズバリ書いてあるわけではないのですが、民事再生法上、
「再生手続開始後の再生債務者の業務、生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権」
ないしは、
「再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で、再生手続開始後に生じたもの」
等から、養育費の「共益債権」該当性が認められております。
難しい話はおいておくとして、重要なのは、養育費債権を共益債権として支払ってよいのであれば、養育費代わりの住宅ローンの支払いについても、支払いが認められないか、ということです。
債権者である住宅ローン会社が今まで通り支払ってくれるのであればそれでいい、と言ってくれている、つまり、住宅ローン債権者と別除権協定を締結できているのであれば、住宅ローンを共益債権として支払えないかという話です。
この辺りを裁判所が認めてくれれば、そのような再生計画案が認可されて、支払いを継続できます。
裁判所が認可しない場合の対応として元妻との再協議
現在、元妻はとにかく住居の維持ということを第一義的に考えているようですから、例えばですが、
1)元妻があなた名義の不動産を住宅ローンを借り換えして自分(元妻)の名義にして、あなたは、住宅ローン相当額の養育費を支払うようにする
2)元妻と子供たちが住む期限を限って、その期限後はあなたに返してもらい、あなたが住むようにする合意をして、住宅資金特別条項の適用にチャレンジする
ということも考えられます。
~いかがでしたでしょうか。以上、弁護士(新潟市・新潟県)から、個人再生手続において、元妻と子供が住んでいる住居に住宅資金特別条項が適用できるか、別除権協定に基づく共益債権としての支払い継続の可能性も含めてご説明致しました。~