【ご相談内容】自宅だけを相続したい場合

父親が亡くなりました。

現在、我が家(自宅)では、父親、母親、兄、妹(私)の5人が暮らしておりますが、自宅は父親名義でした。

そして、父親は新潟県見附市の出身で、見附市にも、不動産をもっておりましたが、山林です。

実際に行ったことはありません。

父親と母親がその見附市にある山林について話し合っているのを聞いたことがありますが、

「売れない」

とか

「税金だけかかって困る」

とか

「放棄もできない」

とか

話し合っていたのを聞きました。

今、みんなで住んでいる自宅はなくなると困るのですが、もし、父親が亡くなってしまった以上、その山林だけ相続放棄するということはできないと言われて、相続放棄しました。

兄は、

「みんなが相続放棄して、誰も相続する人がいなくなったら、その山林が残ってしまって困るだろうから、俺が全部、引き受ける」

と言って相続しました。

ですが、母は、父が亡くなった際に、

「あたしが死んで二次相続でまた税金を支払うのも、もったいないし、どうせ、自宅は○○(兄)が継ぐのだから」

と言って、結局、自宅、貸し駐車場を全部、兄名義になりました。

母は少しの銀行預金を相続しました。

ところが、兄は、みんなの期待を裏切って、自宅に母とは住まずに、それどころか、結婚→離婚してしまい、親権をとったはいいけど、自分で育てることもせず、全部、母に任せっきりです。

もちろん、そのために、母にお金を渡すなどということもしておりません。

正直言って、騙された気分です。

母は

「今更それを言っても」

とか

「孫に罪はない」

とか言って、何も兄に文句を言いません。

私は、頭に来たので、

「母の面倒をみるどころか、母に苦労を掛けるのであれば遺産はお母さんに返しなよ!」

と言ったのですが、

兄は開き直って、

「別に、母の面倒をみるなどと約束したわけではない」

「母も孫と一緒で楽しそうだ」

「むしろ、ボケ防止になる」

「一度もらった遺産を戻すのはむしろ法律違反になるし、税金もまた発生する」

などと、むかつくことばかり言っています。

ちなみに、遺産分割協議書などは全く作っておりません。

ただ、兄が連れてきた司法書士が

「登記をするために必要だから」

と言って持ってきた書類にはたしかに、母はサインをした覚えがあります。

許せないのですが、仕方がないのでしょうか?

私は、父の生前にどうにかすることができたのでしょうか?

【ご回答】~弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明~

価値のない山林は相続したくない

よくある話ですよね。

「原野、田、畑、山林は、相続したくない」、

「原野、田、畑、山林は、相続しても管理や費用の点で困る」、

などなど、結局、お金にならないものは、皆さん嫌がります。

そこで、相続放棄するかどうかが問題になるのです。

相続放棄は、するか、しないかの二択

相続放棄は、全財産・全債務を放棄することになるので、特定の財産だけを放棄したり、財産を相続して、債務を放棄したり、することはできません。

ですので、相続が発生した後ですと、

・自宅も山林も全部、相続放棄するか、

・自宅も山林も全部相続するか、

という選択しかありえなくなります。

そこで、どうしても自宅は残したいし、どうしても山林は放棄したい、ということであれば、生前に、その自宅についてのみ贈与してもらう(生前贈与)か、売ってもらう(親族間売買)しかありません。

もちろん、生前贈与の場合には、贈与税の支払いが問題になります。

親族間売買の問題点

また、親族間売買の場合には、売買代金を支払わなければなりませんので、売買代金の準備の問題が生じます。

しかも、親族間売買の場合には、その不動産(自宅)の価格・値段が安すぎれば、やはり贈与税の支払いが問題になります。

仮に、親族間売買の場合において、その不動産(自宅)の価格が適正だっとしても、その現金が今度は相続の対象となります。

ですので、もし、祖父が売買代金を残したまま亡くなった場合には、その現金を放棄するのか?というジレンマに直面します。

贈与税の試算、売買代金の準備・処分、(仮に)山林を相続した場合の、手間ないし管理に係る費用(固定資産税等)、などをよく考えて、どうするかを決める必要があります。

約束違反で遺産分割を解除できるか?

今回のケースでは、遺産分割協議をしたときに、例えば、母親の面倒をみるという負担付の遺産分割をしたと考えることはできるかもしれません。

ですが、たとえ、そのように考えたとしても、遺産分割協議を解除することはできません。

たしかに、兄が母親の面倒をみないどころか、母親に苦労をかけているなど、言語道断で、約束違反も甚だしいです。

しかし、判例上、遺産分割の協議を認めることはできない、となっているのです。

(もちろん、今回の内容が最高裁判例の事例と同じというわけではないので、同じ判断になるとは限りませんが、むしろ、今回の場合には、遺産分割協議の書面を作って、兄の義務をきちんと明示していない分、余計に難しいです。)

では相続放棄の撤回はできないか?

ですので、今回の場合には、チャレンジでやるとすれば、相続放棄の撤回でしょう。

ただし、「相続放棄の撤回」が認められるためには、様々な条件があります。

相続放棄撤回の要件

そもそも、相続放棄の撤回ができるのは、

1 詐欺または強迫

2 未成年者が法定代理人の同意を得なかった

3 成年被後見人本人が相続放棄した

4 後見監督人がいるにもかかわらず、被後見人もしくは後見人が後見監督人の同意を得ないで相続放棄した

5 被保佐人が保佐人の同意を得ないで相続放棄した

上記いずれかの場合に限るとされているのです。

詐欺を理由とする相続放棄の撤回

今回について言えば、

「兄が母親の面倒を見るから相続放棄をした」

つまり、「兄が母親の面倒を見る」と騙されて(詐欺で)、相続放棄をしてしまった、と構成することが可能かもしれません。

ただ、兄は、

「いいや、そんな話はしていない」

「お前らが勝手に相続放棄しただけだ!」

と争いにはなるでしょう。

ですが、何もしないとこのままです。

詐欺を理由とする撤回の場合には、

1)詐欺にあったことを知った日から

2)6か月以内に撤回の申し入れをしなければならない

とされています。

これを逃すと、撤回の申し入れさえできなくなります。

相続放棄撤回の効果

運よく、相続放棄の撤回にまで漕ぎつければ、あなたはさかのぼって、相続人であったことになります。

ですので、兄に対して遺産分割を申し入れることができるようになります。

実質的な争いはそこからになるとは思いますが、やるなら、期間制限もあることですし、なるべく早く着手した方がよいです。

ただし、そんなに簡単でないことも覚悟しておく必要があります。