【ご相談内容】個人再生における特定の債権者に対する支払い(偏頗弁済)
キャッシングやカードローン等で約300万円の借金があるのですが、昨年、自宅を住宅ローンで購入したばかりで、できれば、民事再生法・個人再生法でなんとか債務の整理ができないものかと悩んでいます。
ただ、問題は、私、奨学金も相当残ってしまっておりまして、支払は、正直、月々僅かなので、奨学金だけであれば支払って行くことは可能なのですが、さすがに、奨学金だけを支払うわけにはいきませんよね?
ただ、連帯保証人や保証人に請求がされてしまうと迷惑をかけてしまうので、心苦しいです。
【ご回答】~弁護士(新潟市・新潟県)から~
個人再生の場合における特定の債権者に対する支払い(偏頗弁済)
個人再生において、特定の債権者にのみ債務の返済をすることを
偏頗弁済(へんぱべんさい)
といいます。
難しい法律用語で言いま恐縮ですが、
偏頗弁済とは、支払い停止後、特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的で、債務の消滅に関する行為(返済行為)をすることを言います。
個人再生の場合には、自己破産と異なり、住宅ローンについては、住宅資金特別条項を設けることを前提に、弁済許可の申し立てをすれば偏頗弁済にはなりません。
また、税金や社会保険料等の公租公課についても、そもそも、個人再生を申し立てたからといって、支払い義務が停止されるものではないので、その支払いをしても偏頗弁済となりません。
いつの返済から偏頗弁済になるのか?
あらゆる返済が偏頗弁済となってしまうとすると、個人再生をする前においては、およそ返済ができないという結論になってしまいます。
およそ借金の返済が問題になるようなときは、あらゆる支払いを一気にストップするわけではなく、例えば、日々の生活に必要な支払いはしつつも、額の大きな返済については支払えないので、延滞しながら少しずつ支払うという事はよくあることだからです。
そこで、基準としては、【支払い不能】ということで、その人の収入・財産状況からして、一般的かつ継続的に弁済することができない状態なった場合には、以降の返済は偏頗弁済として扱われます。
ただ、この基準は非常に抽象的で、実務的には、
「あなたはこの時期ではもう破産か再生をしなければならない状態だったでしょ?」
と言われるような客観的状況と弁護士が介入する3カ月前程度における特定債権者への返済が偏頗弁済と扱われることが多いように思われます。
弁護士に依頼した後はもちろん偏頗弁済になります。
再生委員や破産管財人との論争のポイントです。
個人再生手続きにおいて偏頗弁済をするとどうなるか?
弁護士に個人再生申立ての依頼をなしているにもかかわらず、奨学金など、一部の債権についてのみ返済してしまった場合には、それは偏頗弁済となりますが、それでどうなるでしょうか?
ちなみに、個人再生の申立書類の中には、通帳の直近2年分の写しや債権ごとの取引履歴が含まれているので、お金の移動は一目瞭然です。
それで、偏頗弁済をしてしまうとどうなるかということですが、特定の債権者に対して偏頗弁済をしてしまった場合には、その金額は、本来は手元に残っているはずのお金であるとして、偏頗弁済した金額をあなたの財産(清算価値)に上乗せ計上されることになります。
「それが何か問題でしょうか?」
と思いますか?
そもそも、小規模個人再生という個人再生手続においては、負債総額から計算した最低弁済額と、清算価値を比較して、高い金額が実際の返済額とされます。
したがって、清算価値の金額によっては、返済額が増えてしまうのです。
負債総額から計算した最低弁済額 > 清算価値
さらに、あまりに程度が行き過ぎの場合には、その再生計画は債権者の一般の利益に反するものと判断されて、再生計画案が認可されない(不認可)というおそれもあります。
すでにご理解されているようですが、 結論として、奨学金だけを特別扱いして、返済することはリスクが高いのです。
~以上、弁護士(新潟市・新潟県)から、個人再生の場合における特定の債権者に対する支払い(偏頗弁済)について、その場合の取り扱いも含めてご説明いたしました。~