【ご相談内容】小規模個人再生と書面決議における債権者

村上市(新潟県)で、従業員正社員2名、パート・アルバイト2名の合計4人で、小さな事務所で、商社とまではいかないですが、繊維(アパレル)関係の販売業をしております。

3年前から徐々に注文が少なくなり、ついには、5分の1にまで減ってしまいました。

もちろん、私としても、手をこまねて、ただ、注文が来ないことを嘆いていたわけでは決してありません。

いろいろな卸先の開拓のための営業、ホームページやSNSの構築・インターネット広告、各種商談会への顔出し、その他、いろいろ取り組んできたつもりです。

どれも、経費を使うばかりで、パッとしたところは、ありませんでした。

これも、決して、他人のせいにするわけではないのですが、3年前に、一旦、正社員を解雇して、私がもっと現場作業をして、パート・アルバイトだけにすれば、こんなに事態は深刻にならないで済んだかもしれません。

ですが、すべての結果は私にあります。

住宅については、10年前に購入してまだローンが残っています。

住宅ローンの残金は1600万円です。

事業のための借り入れは、A銀行(保証協会付き)が1000万円、

私のクレジットカードを使った借り入れが200万円、

消費者金融が400万円、

B銀行カードローンが300万円です。

遅まきながら、今般、正社員の方には、倒産するという事で、辞めてもらうことにしました。

ただ、5分の1とは言え、売り上げがないわけではないので、

できれば民事再生(個人再生)として手続きを進めて、事業を残したいですが可能でしょうか?

また、仕入れ代金については、民事再生(個人再生)の手続から外してもらいたいのですが可能でしょうか?

【ご回答】~弁護士(新潟市・新潟県)から~

個人再生前に発生した仕入れ代金(買掛金)

民事再生(個人再生)の手続に入った場合に、すでに、仕入れ代金(買掛金)が発生していた場合には、原則としては、それは再生債権ということになりますので、民事再生(個人再生)の枠組みにいれた処理が必要です。

どういうことかと言うと、民事再生(個人再生)の開始決定後は、一旦、支払いをストップして、かつ、あなたの総債務額に従った債権カット(債務免除)率に基づく債権カットを得て、その仕入れ代金を支払うのです。

具体的には、例えば、あなたの総債務額から、債権カット率が85%であると算出された場合には、仕入れ代金についても、その額の85%をカットして、残りの15%だけを支払うのです。

・・・15%になって良かった。

と思うかどうかですが、

「民事再生(個人再生)の手続から外してもらいたい」

というぐらいだから、そうは思わないという事ですよね。

それはそうでしょう。

そのような減額(減縮)をされてしまったら、通常は、もう2度と取引してくれないでしょうからね。

ですが、原則としては、個人再生手続きの前後で分けて、個人再生手続き前の債務については、基本的に、債権カットの対象となってしまうのです。

もちろん、「原則としては」と言っている以上、例外もあります。

(1)個人再生における例外的弁済~債権者が中小企業の場合

その取引の相手方が中小企業である場合で、

【弁済を受けなければ、事業の継続に著しい支障を来すおそれがあるとき】

は、裁判所は、再生計画認可の決定が確定する前でも、申立てにより又は職権で、その全部又は一部の弁済をすることを許可することができます。

ただし、裁判所は、許可をする場合には、取引の状況、資産状態、利害関係人の利害その他一切の事情、を考慮して行います。

また、債権者の側から申立てをするように求められたときは、直ちにその旨を裁判所に報告しなければなりません。

さらに、その申立てをしないこととしたときは、遅滞なく、その事情を裁判所に報告しなければなりません。

(2)個人再生における例外的弁済~債権が少額の場合

【少額の債権を早期に弁済することにより手続を円滑に進行することができるとき】

又は

【少額の債権を早期に弁済しなければ債務者の事業の継続に著しい支障を来すとき】

は、裁判所は再生計画認可の決定が確定する前でも、申立てにより、その弁済をすることを許可することができます。

個人再生後に発生した仕入れ代金(買掛金)

個人再生の開始決定後に発生した仕入れ代金・買掛金は、債務者の業務に関する費用の請求権ですので、随時、支払いをすることが可能です。

個人再生の手続において、支払禁止の例外として認められる債務(債権)の1つに共益債権というのがありますが、

「再生手続開始後の再生債務者の業務、生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権」

「再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で、再生手続開始後に生じたもの」

は、共益債権として、支払いが認められるのです。

小規模個人再生と書面決議における債権者の動向

「できれば民事再生(個人再生)として手続きを進めて、事業を残したいですが可能でしょうか?」

ということですが、あなたのような個人事業主のための民事再生を小規模個人再生というのですが、この小規模個人再生においては、「書面決議」という手続きがあります。

これは、その名の通り、債権者に対して、

「この債務者の方が再生手続きを進めるのですが、再生計画に反対意見はございませんか?」

と意見をきくものです。

ここで、過半数の反対意見が出てしまうと、再生手続きを進められなくなってしまうのです。

あなたの場合、

A銀行(保証協会付き)が1000万円、

クレジットカードを使った借り入れが200万円、

消費者金融が400万円、

B銀行カードローンが300万円、

総額 1900万円

とのことですが、ここで、もし、A銀行があなたの再生手続きに反対することになると、1000万円/1900万円 となって、過半数の反対意見が出たという事になります。

ですので、A銀行の動向は非常に重要です。

とはいえ、A銀行に対して、

「この度、民事再生手続きを行うことになったので、反対しないでください。」

と事前に言ったところで、

「はい。分かりました。」

と言ってくれるとも思えません。

一つは、運に任せて、書面決議に突入する。

もう一つは、その懸案となっている仕入れ先を再生手続きに組み込むことです。

A銀行(保証協会付き)が1000万円、

クレジットカードを使った借り入れが200万円、

消費者金融が400万円、

B銀行カードローンが300万円、

総額 1900万円

とのことですが、ここに例えば、仕入れ代金500万円が加わるとすると、

A銀行(保証協会付き)が1000万円、

クレジットカードを使った借り入れが200万円、

消費者金融が400万円、

B銀行カードローンが300万円、

仕入れ代金が500万円

総額 2400万円

となり、たとえ、A銀行が反対したとしても、1000万円/2400万円 となって、A銀行単独で書面決議を否決に持ち込むことができません。

単独で否決できる債権者を抱えないというのが民事再生ではまずは重要です。

もちろん、その副作用として、仕入れ代金が債権カットの対象となります。

ですので、すごい決断が求められますが、感覚的には、むしろ、仕入れ業者に相談して、A銀行対策をする方が現実的であるように思われます。

~いかがでしたでしょうか。以上、弁護士(新潟市・新潟県)から、個人再生前後に発生した仕入れ代金(買掛金)、共益債権、小規模個人再生と書面決議における債権者の動向、について、ご説明致しました。~

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