【ご相談内容】相続発生による(遺産分割・相続放棄)と債務整理方針の変更
新潟県北蒲原郡聖篭町という小さな町で飲食店を妻と2人でやっております。
近所のパートさんも2,3人使ってはおります。
聖篭町(せいろうちょう)内からのみならず、新潟市や新発田市からもお客さんは来てくれますが、
赤字が続いております。
妻の実家からすでに1000万円ほど援助を受けておりますが、
これとは別に、銀行や信金、日本政策金融公庫、カードローンで総額で借金は3500万を超えてます。
妻も連帯保証人になっております。
ただし、飲食店は続けたいと思っております。
先日、地元の不動産屋さんにこの幹線道路沿いの店舗を売ったらいくらになるか見てもらったところ、
「土地をいれても200万円にしかならない」
と言われてしまい、
「誰か飲食店舗をやる人にもう少し高く買ってもらえないか?」
と聞いたところ、
「居抜きで売るにしては設備が古すぎる。」
「ほとんど土地値しかない。」
と言われてしまいました。
17年頑張ってきましたが、近くにファミレスやファーストフード店が出てきて、売り上げもお客さんの数も3分の1程度になったような気がします。
これではもはや、今までと同じやり方では立ちいかないので、メニューも絞って、作業も単純化して、なるべく人手を減らし、借金さえなければ、夫婦でやっていくぐらいの利益は確保できるようになりました。
ですので、
「店を続けながら、私も妻も個人再生という手続きをやろう」、
と先日、新潟の司法書士に相談に行ったばかりでした。
ところが、タイミングが悪いというか、妻の父親、つまり義父が亡くなってしまいました。
店のことで苦労ばかり掛けて申し訳なかったですが、このタイミングとは本当に、残念です。
そして、義父の相続問題も発生してしまいました。
妻は、両親にも、2人いる兄たちにも申し訳ないので、相続放棄すると言ったのですが、
その司法書士は、むしろ、
「相続して、そのお金で払えるだけ払った方がいい」、
「早速、遺産分割協議書と登記の委任状を送るので皆さんでサインしてください」、
というのです。
ですが、そうすると、実家にはまだ義母も長男(妻の兄)家族も住んでますが、それはどうなりますか?
これ以上、妻の実家に迷惑をかけるわけにはいかないのです。
【ご回答】~弁護士(新潟市・新潟県)から~
相続と債務整理方針の変更
その司法書士が言っている
「払えるだけ払う」
の意味があまりよく分かりません。
債務整理と言っても、そのやり方としては、任意整理、自己破産、個人再生があるだけで、任意整理は、支払総額は変わらないけれども月々の支払額を変更するというものです。
ですので、もちろん、奥さんが相続した財産で借金の額が返済できればいいですが、3000万円を超える借金の返済ができるほどの遺産があるというのでしょうか?
仮に、1000万円を相続したとして、それを返済に充てても、まだ残額があります。
それはどうするつもりでしょうか?
ひょっとすると、1000万円をとりあへず支払って残りを分割払いにするという、任意整理にするつもりなのでしょうか?
支払える見通しは立つのでしょうか?
仮にの話が続きますが、3500万円のうち、1000万円を支払うと、残りは2500万円になり、仮に7年間の支払い期間が合意できたとしても、月の支払額は約30万円ですが、本当に大丈夫なのでしょうか?
しかも、おっしゃる通りで、その中に不動産があるのだとすると、あなたの奥さんは、
遺産の6分の1(相続人が義母と3人の子であるとして)を相続する
と言っても現実には、家の持ち分自体は現金ではないので、結局は、その家は売らなければ現金化できません。
義母も長男(妻の兄)家族も住むところがなくなってしまいます。
相続と特別受益と遺産分割協議
さらに言いますと、そもそも、奥さん(及びあなた)は、すでに、奥さんの実家から1000万円の援助を受けているそうですが、これは、
「特別受益(生前贈与)」
と言って、遺産の前渡しになる可能性もあります。
もちろん、これを承知で他の相続人の方々が遺産分割協議に応じてくれればいいですが、誰かが、
「お前のところは、すでに十分もらっているだろう!」、
「さらに法定相続分とか図々しいだろ!」
とか言われ始めると、そもそも遺産分割協議が進まなくなります。
遺産相続(遺産分割)と個人再生
仮に、遺産分割が誰からも文句がでなくて、遺産相続(遺産分割協議)ができたとします。
そして、そのまま個人再生に進むとどうなるでしょうか?
本来であれば、個人再生では、住宅ローン以外の債務総額は、その総額に応じて、8割とか、9割とか負債をカット(減額)してもらうことができます。
例えば、負債総額が3500万円の場合には、350万円と10分の1まで減額されます。
ところが、個人再生には、清算価値保障の原則というものがあり、これは、最低弁済額は、債務者の財産相当額を下回ることはできないという原則です。
しかし、債務者の財産(現預金、保険の解約返戻金、不動産、自動車等)には遺産も入ります。
その合計が1000万円であるとすると、最低弁済額は1000万円になります。
要は、もらった遺産はそのまま返済に充てましょう、ということにはなります。
ただし、逆に言えば、それ以上は支払い義務を負いません。
つまり、本来の債務3500万円にくらべて、1000万円の返済をすればそれで終了します。
このことを司法書士は言っているのでしょうか?
よく分かりませんが、お勧めは相続放棄です。
その分、つまり本来のあなたの相続分は、お母様に取得していただくのがいいのではないでしょうか?
こんな言い方をするのはなんですが、あなたは払えるだけ払ってということでいいかもしれないですが、お母様がそれで老後資金に事欠いたり、住むところがなくなったら大変ではないですか?
それに、もし、お母様が亡くなられたときには、改めて相続するかしないか考えればよいのです。
相続放棄と個人再生
ちなみに、相続放棄をしても個人再生において、
「なんで、借金があるくせに相続放棄なんてするんだ!」
と咎められることはありません。
これには、裁判例があり、
「相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によってこれを強制すべきでない」
とされており、その自由な意思により、放棄することが認められているのです。
なお、相続放棄は、
「自己のために相続が開始したことを知ったときから3ヶ月以内」に、
所定の管轄の家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければなりません。
それから、勘違いしている人が非常に多い危険のことをご説明しておきますと、遺産分割協議書において、
「○○の取得分をゼロとする。」
とか、
「○○は相続を放棄する。」
とか、
を記載するのは、法律上の「相続放棄」ではありません。
その場合には、その本来もらえるはずのものを他の相続人にタダであげてしまった、ということになるので、あげた分は清算価値にいれて計算されてしまいます。
そうすると、結局、個人再生の前に相続したのと同じで、結局、返済額が多額に膨れ上がってしまうのです。
要するに、個人再生では、このような行為は、無償否認といって、自分が借金を背負っている中で、
「ただで、他人に財産をあげるのはけしからん!」
として、タダであげた分は上げた債務者が、代わりに返済しなければならないということになっているんです。
ちょっと、手続きを間違えただけで恐ろしいですね。
ちなみに、個人再生では、裁判所が認可したあとに、取得した財産は自分のものとすることができます。
ですので、将来もし、お母様の相続が発生した時には何か財産を相続しても問題ありません。
~いかがでしたでしょうか。以上、弁護士(新潟市・新潟県)から、相続と債務整理方針の変更、相続と特別受益と遺産分割協議、遺産相続(遺産分割)と個人再生、相続放棄と個人再生について、ご説明致しました。~