【ご相談内容】個人再生と自己破産の比較(免責不許可事由等)
個人再生は、借金が一部残って、自己破産は、借金が全部なくなるんですよね?
普通に考えると、借金が全部なくなる方が楽になると思うのですが、なんで、個人再生を選ぶ人がいるんでしょうか?
ただ、私も「破産」という言葉が嫌いです。
みんな、「破産」とか「破産者」と呼ばれるのが嫌だから、個人再生を選ぶんでしょうか?
借金が残るか残らない以外に違いはありますか?
【ご回答】~弁護士(新潟市・新潟県)から~
個人再生と自己破産の違いは債務が残るかだけではない
おっしゃる通りで、個人再生と自己破産の違いの1つに、
個人再生は、債務の返済が必要となるが、
自己破産は、(免責がおりれば)債務の返済が必要とならない、
という違いがあります。
しかし、違いはそれだけではありません。
自宅住宅を持っている場合
自己破産をすると自宅を手放さなければならなくなります。
「家がなくなると大変!」
「そうなると困るからと妻や子供に名義を変更する」
こういう人が未だにいるようですが、そういうのは無駄です。
名義変更をしても名義変更の登記費用・司法書士の費用を損するだけです。
破産管財人が「否認権」と言って、その名義変更を無効にして、最終的には、結局、その家(自宅物件)を売り払ってしまいます。
そして、家を売ったお金は破産管財人の報酬となり、さらに余れば債権者への配当となります。
ですが、個人再生の場合には、そもそも家や資産を売却することを前提としておりませんので、自宅は手元に残ったままです。
ただし、その自宅の価値相当分の金額は返済しなければなりません。
いわゆる「清算価値保障」というもので、
住宅ローンがある場合
では、住宅ローンを支払っている途中の自宅の場合はどうかというと、
自己破産の場合は、同じことです。
破産管財人が、「任意売却」と言って、住宅ローン会社と交渉の上、自宅を売ってしまいます。
ただ、例えば、税金の滞納処分(差し押さえ)がはいっているとか、いろんな問題があって売れない場合もあるのですが、その場合は、今度は住宅ローン会社(銀行等)が競売にかけてしまいます。
いくら、
「住宅ローンは支払い続けるから、競売にしないでください」
と言っても無理です。
なぜなら、自己破産を選択する以上は、債権者平等の原則から住宅ローン会社にだけローンを返すことができないのです。
他方、個人再生の場合には、住宅ローンを支払い続ければ、自宅を持ち続けることができます。
なぜなら、個人再生の場合には、債権者平等の例外として、他の借金を大幅に免除してもらっても、住宅ローン会社に対しては、引き続き、住宅ローンを返済していくということが認められているからです。
そのため、自宅を保持し続けたいという人は、個人再生手続きを選択するほかありません。
(もちろん、住宅ローンも支払えないという場合には無理ですが)
仕事(職業資格制限・取締役等)
自己破産すると、職業の資格制限に引っかかる場合があります。
弁護士とか税理士とか公認会計士とか「士」がつく職業は資格制限を受ける代表的なものです。
その他に、
警備員
保険外交員
がよくあるパターンです。
それから、会社役員(取締役)とか法人の理事等も要注意です。
会社と取締役、
法人と理事、
などは、「委任契約」に基づいて、それぞれの職を委託している(委託されている)のですが、
民法上、(自己)破産は、「委任契約」の終了事由になっているのです。
そこで、上記のような職業についており、その職業を継続したいという人は、個人再生手続きを選択します。
免責不許可事由
自己破産は、債務の返済が必要とならない、と言われますが、それは「免責」がおりた場合に限られます。
「免責」がおりない場合もあります。
それは「免責不許可事由」がある場合です。
「免責不許可事由」とは、「免責」が「不許可」(許可されない)となる「事由」(理由)です。
どんな場合に、免責が不許可になるかというと、
・財産を隠す
・著しく不利な条件で債務を負担する
・浪費や賭博で不相当な債務を負担する
・破産手続において嘘をつく
というような場合に、「免責不許可事由」があると判断されます。
免責不許可事由で多い例
最も、多いと思われる免責不許可事由が、
「浪費や賭博」
です。
ついショッピングし過ぎてしまった、
ゲームにはまってやたらと課金を受けてしまった、
キャッシングしてまで 飲み歩いてしまった、
デートで不相応な金の使い方をしてしまった、
金がないのに外車のローンを組んでしまった、
競馬にはまってしまった、
パチスロに相当突っ込んでしまった、
アイドルの追っかけで全国のライブに行ってしまった、
・・・・・・・・
こういうところです。
免責不許可事由に該当する場
誰でも、状況によっては陥る危険があります。
ですが、破産となると、裁判所や破産管財人は、
「そうだよね。人間誰しも、そういうことってあるよね。」
などとは言ってくれません。
「債権者の方々に申し訳ないと思っているのか」
「なんで、こんなことをしたんだ」
等々、言われても当然の言葉ですので、返す言葉がありません。
結果として借金返せなくなっちゃってますから。
反省文や家計簿を付けさせられることで済めばまだしも、反省を示すために、お金を積み立てて下さい、と求められることもあります。
しかも、その積み立てたお金は、債権者の配当に回るならまだしも、全部、破産管財人の報酬になっちゃうことも少なくありません。
免責がおりないとどうなるか
積み立てまでしてでも免責がおりればよいですが、一番、最悪なのは、免責がおりない、ということです。
自己破産したけど、免責がおりないということは、すなわち、
自己破産の宣言をしただけで、借金の返済義務は丸々残ったまま、
ということです。
なんのために、一大決心の上で、
手間と
費用と
労力と
ストレスを
抱えて、自己破産の手続きをしたのか分かりません。
個人再生と免責不許可事由
他方、個人再生手続きにおいては、「免責不許可事由」というのがないのです。
そこで、自分に免責不許可事由があるなと思いあたる人は、個人再生手続きを選択する方が少なくありません。
偏頗弁済と否認権
「この人だけには迷惑かけられない」
「親から借りた借金は返さないと親が生活できない」
こういう事ってありますよね?
それで、自己破産をすると、一切の債務をストップしなければなくなるから、と、
慌てて、自分の選んだ債権者に対してだけ返済する、、、、
これも、自己破産の場合は、無駄な行為です。
既に述べたように、破産管財人が「否認権」と言って、その返済(「偏頗弁済」と言います。)を無効にして取り戻してしまいます。
ですが、個人再生の場合には、否認権というものがありません。
ただし、偏頗弁済した分(返済した額)を最低弁済額に上乗せさせられることはあり得ます。
そこで、自分の返済額が多くなるのは仕方ないにしても、否認権を行使されると元も子もないと思う人は、個人再生手続きを選択する方が少なくありません。
~いかがでしたでしょうか。以上、弁護士(新潟市・新潟県)から、個人再生と自己破産の違い、住宅の保持、職業資格制限、免責不許可事由、否認権(偏頗弁済)について、以上、ご説明いたしました~