【ご相談内容】承継執行文とは

実父が亡くなりました。

兄弟は、長男、次男(私)、長女、次女の4人で、実母は我々が小さい頃に既に亡くなっています。

先日、裁判所から、承継執行文という書類が送られてきて、訳が分からず、司法書士に見せて相談したところ、相続放棄期限後だけど相続放棄すれば大丈夫、と言われて、長男以外の私(次男)、長女、次女は相続放棄をしました。

ところが、今度は、強制執行の予告書というものが送られてきました。

相続放棄をしたので、この件は、解決しているものだと不審に思いながら、再度、司法書士にどうなっているのか聞いたところ、

「相続放棄は、たしかに受理されているが、それだけでは債権者が納得しない」

「もはや、私たち司法書士ではどうにもならない」

「各相続人に対して請求されているのは約1000万円だが、我々司法書士は140万円までしか対応できない」

「弁護士に相談した方がいい」

と言われてしまいました。

前提事実としては、父は農家をしていたのですが、それについての借金があり、私(次男)、長女、次女は、長男から頼まれて、すべての土地(自宅と農地)は長男に譲りました。

その際に、司法書士から、長男名義にするのに必要だと言われて、何かの書面に言われるままにサインした覚えはあります。

長男からは借金のことは何も聞かされていませんでしたが、すでに父がまだ生きているときに裁判が起こされてその判決が確定していたとのことでした。

長男はずっと父と一緒に埼玉の坂戸という所で暮らしていたのですが、我々三人は、私は東京、長女は新潟、次女は仙台、と全員バラバラで、長男とも葬儀以来、全く連絡を取り合っていませんでした。

驚いたことに、我々が知らない間に、なんと長男は自己破産をしており、自宅も売り払われてしまっていました。

債権者は父がお金を借りていたJA(農協)ではなく、その債権を買い取ったという債権回収会社です。

どうすればいいでしょうか?

こんなことなら、最初から弁護士に頼んだ方がよかったのでしょうか?

【ご回答】弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明

承継執行文の付与の申し立て後の相続放棄

現状を理解しておくために、簡単に法律手続・用語の説明をしておきますと、あなたのお父様がすでに訴えられて判決をとられていたということですが、判決のことを

債務名義

といいます。

債務名義は、強制執行をする場合に必要です。

ただし、判決「債務名義」があるだけでは強制執行はできません。

それが確定していなければなりません。

確定した判決を「確定判決」といいます。

さらに、この確定判決「債務名義」に「執行文」というものが付与されなければなりません。

「執行文」とは、その債務名義は強制執行をすることができるものであるということを証明するものです。

判決で勝った側(原告・債権者)が判決で負けた側(被告・債務者)に対して強制執行するので、例えば、判決文に、

「被告は原告に対して、金1000万円を支払え」

とあれば、そのまま、執行文の付与を受ければ強制執行できます。

この場合の執行文を「単純執行文」と言います。

ただし、判決で勝った側(原告・債権者)や判決で負けた側(被告・債務者)が変わる場合があります。

判決で勝った側(原告・債権者)が変わる場合としては、債権譲渡がなされる場合があります。

判決で負けた側(被告・債務者)が変わる場合としては、相続がなされる場合があります。

これらの場合には、債権・債務の承継(変更)があったことを裁判所に申し出て、判決文(債務名義)に表示された者以外の者に執行力が及ぶことを認めてもらうことができます。

例えば、相続があったとして、戸籍謄本を提出して、相続人に対する執行文の付与を受けたりすることができます。

これを、承継執行文の付与というのです。

現在、承継執行文が付与されているわけですから、このままではどんどん、強制執行が進んでしまうおそれがあります。

承継執行文の付与を争う方法(相続放棄+執行文付与に対する異議の申立て)

司法書士が期限後の相続放棄をしたのはそれはそれでよいですが、わざわざ、債権者が承継執行文の付与までとりに来たわけですから、それだけで済むはずがありません。

この承継執行文の効力を争うために、執行文付与に対する異議の訴えを提起する必要があります。

そして、その中で、相続放棄の有効性を主張しなければなりません。

相続放棄が受理されたということは、あなた方が相続財産(債務)を認識した時点は、『当該承継執行文の付与がなされたことが裁判所から通知されたとき』であると、判断された結果です。

ですが、執行文付与に対する異議の訴えも展開する必要があります。

具体的には、

「長男が全ての財産を承継(相続)するものと理解していたので、あなたが相続すべき財産はないと認識していた」

「司法書士から言われるがままに書類にサイン・押印したのは遺産分割協議のつもりはなかった」

「長男から何も言われていないので実父(被相続人)が負債を負っていることを分かりようがなかった」

等々の主張をする必要があります。

そして、最終的には、「(相続)債務がないと信じたことには相当な理由がある」ことを証明するのです。

こんな感じで裁判を進めていく必要があります。

但し、もはや、ご自身で裁判に臨んでどうにかなるという状況ではないと思いますので、そこは、司法書士の言う通りで、弁護士に早急に相談した方がいいでしょう。

司法書士が相続放棄を受理してもらえばそれで済むと思ったのは、そもそも、相続放棄受理の意味が分かっていないとしか言いようがありません。

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