【ご相談内容】相続放棄能力がない場合の成年後見人について
主人が突然、肺炎で亡くなりました。
子供は、長男、長女、次女の3人で全員成人はしているのですが、次女が精神系の疾患にかかっております。
しかも、今の医学界の状況では完治する治療法や薬はなく、一生、付き合っていかなければならない病です。
ですが、長男は、次女に厳しくて、
「あんな奴に金や財産の管理はできそうにないから、俺たち3人で遺産分割して、あいつには相続放棄させよう」
というのですが、次女にも当然、今後の生活があります。
むしろ、普通以上に財産を取得させないと、到底、自分で生計を立てることなどできません。
ただ、たしかに、長男の言う通りであって、お金の管理などはできそうにありません。
どうしたらいいでしょうか?
【ご回答】~弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明~
遺産分割をするには法的能力が必要
次女の方が成人でしかも精神疾患であるとすると、その程度にもよりますが、通常の場合ですと、成年後見人を選任するしかないでしょう。
そうしませんと、そもそも、次女の方は、相続放棄も遺産分割もできません。
相続放棄も遺産分割も法律行為ですから、それに応じた法律行為能力(物事の理屈が理解できる判断能力)がいるのです。
成年後見人は、親族でもなることが可能ではあるのですが、今回のケースですと、ご家族は、皆、利害が対立するので、第三者後見、つまり、裁判所が選任した弁護士が成年後見人になると思われます。
なお、ここでの「利害が対立」というのは、法律上の話です。
他の家族が、次女のお金をとろうとしているとか、そういうお話をしているわけではありません。
成年後見人は、判断能力が不十分な人に代わって、財産管理をする人ですが、相続手続きや契約行為等の法律行為も成年被後見人(後見されている人) に代わって行います。
逆に言えば、成年被後見人(後見されている人)が単独で行った法律行為は、取り消されてしまうのです。
なお、病状の程度によっては、成年後見ではなく、「保佐」、「補助」になる場合もあります。いずれになるかによって、本人が行うことのできる行為の範囲が異なります。
※保佐人や補助人には、原則として、代理権よりも軽い同意権しか認められませんが、遺産分割の代理権が付与される場合があります。
同意権とは、本人が遺産分割協議をするけれども、それについて同意(承諾)しないと法的には有効にならないとする権利です。
成年後見の申し立て手続き
成年後見人の選任の申し立ては、家族であれば行えます。
手続きが面倒ないし困難だという場合には、弁護士に依頼することもできます。
申立書に所定の事項を記入して、必要な書類を添えて、費用とともに裁判所に提出すればよいのですが、医師の診断書が必要となります。
診断書は成年後見用の診断書ですが、愛の手帳があればそれも必要です。
ただ、一応、成年後見についてお話ししましたが、一旦、成年後見人がついてしまうと、もう外すことは不可能です。
それどころか、申し立てを取り下げすることも裁判所は許可してくれません。
成年後見人がついてくれると、それで、みんなハッピーかというと、そうでもないようです。
そもそも、どんな人が成年後見人についてくれるかは全くの運です。
「横柄で鼻持ちならない人がいきなりやってきて、あれ出せ、これ出せ、と言われて頭にきた」
「後見人って言っているくせに、全然、被後見人に会いに来ようとしない」
「不動産の維持管理でお金がかかりすぎるので売りたいと相談したが一蹴されて何も考えてくれない」
等々、いろんなクレームの相談があります。
そうなったら最悪です。
一度付いた成年後見人を変えるのは困難
裁判所は、成年後見人が、横領でもしない限り(されたら困りますが)、成年後見人の解任を認めようとしません。
「明るく、元気で、フットワークがよい、家族の面倒を親身に考えてくれる人」
という基準で、裁判所も後見人を選任していないのです。
偉そうだろうが、暗かろうが、目つきが悪かろうが、連絡がつかなかろうが、そんなの選任の基準にありません。
ただ、選ばれた家族の方は、そんな人がいきなり生活圏に入ってきたら、息苦しくなります。
とは言え、いつまでも遺産分割協議をしないままで、財産に手をつけないで放置するというのも難しい話です。
ですので、そのまま相続、つまり、単純に法定相続分に従って、登記するなりした方が、結果としてよかった、という場合もあり得ますので、再度、長男も含めて、協議した方がいいでしょう。
法定相続なら登記に遺産分割協議書は不要
相続人が複数いて遺産分割協議書がなくても、法定相続分のとおりに登記するのであれば、遺産分割協議書が不要です。
たとえ、他の相続人の了承を得ずに相続人の1人が単独で登記申請しても法定相続分どおりなら登記できます。
つまり、遺産分割についての協議はしなくてもよいのです。