【ご相談内容】相続放棄と連帯保証及び遺産分割協議

遺産相続についてお伺いいたします。

父の遺産としては土地があるのですが、その上に父の弟(私たち兄弟の叔父)が経営している会社の自社ビルが建っています。

実は、私たちは男兄弟3人で私が長男なのですが、3人とも、この叔父の会社で働いているのです。

叔父には娘しかおらず、私たち男3人が、全員、取締役になっています。

私は専務で、次男・三男は平取締役です。

そして、その自社ビルを建てる際には、実は、私たち3人とも、そのローンの連帯保証人にさせられています。

結構な広さの土地(敷地)で、固定資産税も相当なものなのですが、それに比して、地代は極めて低額です。

ここで問題があり、実は、三男は、父に言われて、しぶしぶ、叔父の会社に入ったという経緯があり、父が亡くなったことを機に、会社を抜けたいと言い出しております。

そして、三男の希望としては、

 1 土地は3分の1もらいたい

 2 地代も3分の1もらいたい

 3 固定資産税は今後も3分の1ずつ払っていく

 4 連帯保証を外してほしい

ということです。

そこで、私は、

「辞めるのは構わないが、連帯保証が外せるかどうかは分からない。」

「会社を辞めてからも、相互に連絡がとりあえるか分からないし、途中で、買い取れとか言われてもその時の会社の状況も分からないから、それなら、相続放棄してほしい。」

「もちろん、その分は、会社からの退職金等で補償する。」

と言いました。

すると、弟が、

「連帯保証が外せないのに、相続放棄だけするのは怖い。」

「そもそも、退職金をもらってしまうと、相続放棄ができなくなると税理士から言われた。」

と返信してきました。

弟の返信についてはどう思われますでしょうか?

【ご回答】~弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明~

連帯保証人が相続放棄する意味

弟さんが、

「連帯保証が外せないのに、相続放棄だけするのは怖い。」

というのは、そう思うのは自然なのではないでしょうか?

相続放棄して、財産は相続できなくなる一方で、相続放棄をしたとしても連帯保証をしている以上、負債を負うおそれがあるという状況下では、相続放棄をするのに躊躇を示すというのも理解できます。

退職金をもらっても相続放棄はできる

他方で、「退職金をもらってしまうと、相続放棄ができなくなると税理士から言われた。」という点ですが、

これは意味がよく分かりません。

退職金は、その人と会社との関係の話であり、相続があろうがなかろうが全く関係ありません。

もちろん、現実には、相続放棄をしてもらう代わりに、退職金を支払うということなので、事実上の関連性はあるのでしょう。

しかし、法律上の話でいえば、全く別の問題ですので、退職金をもらったから相続放棄ができなくなるなどと言うことはあり得ません。

そもそも、退職金の法的な性質については、法律上明確な規定があるわけではありません。

その経緯としては、終身雇用制のもとで、定年まで勤めあげた社員が退職金を受け取って、そのお金で定年後の生活を維持するため、というある意味、共済的な意味合いの強いものでした。

ですが、ご存知の通り、終身雇用制も盤石なものではなくなった現代、どのような意味合いで企業がお金を支払おうともそれが、会計上、退職金としての扱いがなされている以上は、それは、従業員(社員・役員)と会社との契約に基づく給付なのであり、それが、私的な相続に影響を与えるはずはないのです。

実際上も、退職金は、

「賃金の後払い」

と考えている会社もいますし、

「企業の福利厚生」

と考えている会社もあります。

その他、

「功労金」

「インセンティブの後払い」

という実績の配分ととらえている会社もあります。

もちろん、退職金の原資を直接、遺産から支払うようなことはできませんが、そうでなければ、会社の金を誰にどのように支払おうが、相続の問題とは無関係です。

弟さんが税理士の話を誤解しているのか、

あるいは、

弟さんの税理士さんが間違えているのか、

のどちらかです。

相続した会社の連帯保証の抜け方

ただ、連帯保証の件ですが、そんなに沢山の連帯保証人が必要な案件とは考えられず、不動産の担保があるでしょうから、平取締役が1人抜けるぐらいは、銀行もOKしませんかね?

交渉の仕方では、おそらく大丈夫な気がします。

経営者保証ガイドラインというものがあります。

これは、社長ないしは代表取締役が例えば、事業承継等で会社を譲る際に、自分は抜けるのに連帯保証が残っていると困るという際に(普通は困ります)、こういう要件を満たしたら、金融機関は連帯保証を抜いてあげてもいいですよ、というガイドラインです。

そこでは、法人と経営者との関係の明確な分離等がなされていることを条件に連帯保証契約を解除しうるとされております。本件は、取締役とは言え、経営者ですらない状況ですから、なおさら、連帯保証契約の解除が認められやすいのではないかと思います。

そうでなくても、借り換え等で契約を更新等して、その際に、連帯保証を抜くということもやり方としてはあり得ます。

また、もし、どうしても駄目だということであれば、普通に、遺産分割協議でやったらどうでしょうか?

条件付きの遺産分割も可能

要するに、その遺産分割の内容として、土地については相続により取得しないけれども、代わりに別の財産を取得する(それが退職金を○○円受領することを条件にしてもよいです。)、という形にすればいいのではないでしょうか?

いわゆる条件付き遺産分割です。

そして、もし、その条件が満たされない場合(約束違反)だという場合には、元に戻って、土地の3分の1を取り戻すことができるという内容にするのです。

相続放棄の形にこだわる必要はない気がするのですがいかがでしょうか?

ご検討ください。