
【ご相談内容】相続放棄と養子及び家系について
妻の実家には、どうやら借金がかなりあるようです。
何に使っているのかは分からないのですが、カードローンとかクレジットカードの借り入れをしているようです。
もし、妻の両親が亡くなった場合には、妻ないしは私たち家族がその借金を負うことになりますか?
実は、妻の両親は、ともに再婚同士で、妻の母は実の母親ですが、妻と父親とは養子縁組をしているのです。
そして、さらに複雑で申し訳ないですが、私たち夫婦は、私が妻の籍に入ったので、我々夫婦の姓は、妻の実家の姓です。
要するに、何が言いたいかというと、妻の養父は、その姓を残すことにかなりこだわりがあります。
このように姓を継いでいる状況でも、仮に、妻の両親が亡くなった場合には、その相続を放棄することができるでしょうか?
もちろん、その時の状況にもよりますが、遺産が何もなく、借金ばかりの状況で亡くなられると我々もさすがに苦しいので、その場合には、相続放棄を考えなければいけないと思っているのです。
そして、相続放棄をしなければならない確率はかなり高いと考えています。
妻自身は、以前、実母から何かの連帯保証人になってほしいと頼まれましたが、私が必死で止めたので、両親いずれの連帯保証人にもなっておりません。
ちなみに、妻には、全く同じ状況の兄がおり、
「お前は女で嫁ぐときに実家は出たことになっているのだから、相続放棄しろ」
と言われているそうです。
ですが兄は、子供もおらず、すでに離婚してバツイチになっておりますし、再婚等の可能性が全くないとは言いませんが、その可能性は極めて低いです。
そこで、私は妻に対して、
「(兄から)相続放棄しろと言われているのだから、何も気にする必要はない。相続放棄させてもらえ。」
と言っておりますが、妻は、
「私は相続放棄するのは構わないが、三条家(仮名)で、男がうちの息子だけなので、息子が三条を継がなくなるのはまずい。」
と言っております。
私は、家名を軽んじて言っているのわけではないのですが、妻は、真剣に、家名を息子に継がせることを使命と感じてしまっているのです。
また、妻が相続放棄をしても、今度は息子に妻の実家の借金が行くのではないかという事も気になっております。
【ご回答】~弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明~

養子は養親の相続をするのか?
お話というかご相談ないしご質問の趣旨は、養子の場合でも相続をするのか?ということでしょうか?
そもそも、養子は、養子縁組により、養親の嫡出子となることですので、実子と同様に、普通に養親を相続します。
ちなみに、お尋ねのケースでは、あなたの奥さんとその父親は、普通養子縁組をしていると思われます。
そして、普通養子縁組の場合には、養親とも親子関係が生じますが、実親との親子関係がなくなるわけではありません。
したがって、養親(養父)が亡くなった場合も法定相続人として相続しますし、実親(実父)が亡くなった場合も法定相続人として相続します。
相続放棄と姓(苗字・名字)
相続放棄をすると、姓(名)について何か影響があるかということをご心配されていますでしょうか?
その点に関しては、全く影響がありません。
例えば、お父さんが三条太郎(家名)で、子供が三条一郎という場合に、三条太郎が亡くなって、三条一郎が三条太郎の相続について相続放棄をしたということであっても、三条一郎は三条一郎のままです。
家を継ぐ継がないは実は精神的なもの
どうも、その人を相続しないと、何か、家を捨てるような意識といいますか、罪悪感を感じる方がいます。
あたかも相続放棄をすることは、そこで、「お家断絶」になるような意識を持つ方がいます。
ですが、相続放棄は、姓とか家系とかとは 全く関係ありません。
相続放棄は、単に、その被相続人の遺産(財産)や負債(借金)を継がないというだけです。
血のつながりも、もちろんそこで途絶えるわけではありません(当たり前ですが)。
家と家系とは違う
ただ、物理的な建物として家やその敷地は、たしかに、相続放棄をしてしまうと、承継することはできません。
ですが、家は家、土地は土地に過ぎません。
三条家代々守ってきた家屋敷と言ったところで、それに借金がくっついてくるんじゃ意味がありません。
生真面目な方なのでしょうが、そのようなものは気にせずに、純粋に、経済合理性を第一義的に相続放棄をするかしないかを決めてください。
相続放棄後の相続順位はどうなるか?
ちなみに、あなたの奥様が相続放棄をすると、あなたの息子さんが代襲相続をすることになる、
ということを心配されていらっしゃるのでしょうか?
であるとすると、その心配はご不要です。
「代襲相続」とは、『被相続人よりも先に死亡しているなどの場合に、その本来の相続人の直系卑属が本来の相続人と同じ地位を相続すること』を言います。
つまり、どういうことかを例を挙げて言いますと、
三条正一郎がお爺ちゃん
三条正太郎が子供
三条太郎が孫
として、三条正太郎(子供、三条太郎から見ると父)が、三条正一郎(お爺ちゃん)よりも先に亡くなっている場合に、三条正一郎(お爺ちゃん)が亡くなった時の三条正太郎の相続分をそっくり三条太郎が相続することを言います。
代襲相続するのは、直系卑属、つまり、直系の下の方のラインだけです。上に行くことはありません。
また、配偶者も代襲相続することはありません。
ただし、兄弟姉妹が本来の相続人であるが、その本来の相続人がすでに亡くなっている場合には、その子供に限って(一代限り)代襲相続が認められます。
その意味では、あなたのお子さんは直系卑属ではあるのですが、相続放棄の場合には、先に死亡していた場合と異なり、代襲相続にはならないのです。
上記の例で、三条正一郎(お爺ちゃん)が亡くなった段階で、三条正太郎(子供)が生きているとして(これが普通の状況ですが)、三条正太郎が相続放棄をすると、最初から、三条正太郎は相続人でなかったということになるので、三条太郎(孫)も父である三条正太郎に代わって相続する、ということにならないのです。
いずれにせよ、本件は、単に、姓だけのお話ですので、相続放棄は問題にならないのですが、安易に相続放棄をしてしまうと、逆に言えば、資産があった場合も相続できないことになってしまいますので、慎重に検討してください。