
【ご相談内容】相続放棄と単純承認行為
夫が亡くなりました。
特に、資産もないし、家も借家なので、名義も変更せず、夫の名義で家賃を支払いながら今の私と娘2人で暮らしています。
ところが、夫のクレジットカードで毎月支払いのものがいくつかあり(インターネットプロバイダ料金、衛星放送(CS)、ETC)、それらの料金は、私もうっかりしていたのですが、支払いをしないまま使い続けていました。
それで、結局、夫名義の預金口座が全て凍結されたので、それに伴い、引き落とし不能で、クレジットカード会社から督促状が来ました。
問題は、そのクレジットカードについては、夫は、毎月支払いの、プロバイダ料金等をそのクレジットカードで支払っていただけではないのです。
キャッシングもしていたらしく(というか、キャッシングしていたのですが)、その金額が85万円にもなっており、ただでさえ、夫が亡くなって経済的に大変なのに、こんな金額支払えません。
クレジットカード会社に夫はもう2か月前に亡くなっている旨を話したのですが、
「そんなのはこちらは知らない」
「亡くなった後もインターネットや衛星放送を使い、ETCも使ったのだろう」
「使ったのに知らないとは無責任ではないか」
等々言われました。
たしかに、そうなのですが、インターネットやETCなんて、夫のクレジットカードを意図的に使ったわけではないのです。
亡くなった後のごたごたの中で気が回らなかったのです。
どうすればいいでしょうか?
相続放棄できますか?

【ご回答】~弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明~
単純承認行為があると相続放棄はできない
原則として、 被相続人であるご主人の死亡から3カ月以内であれば、期間的には、相続放棄はできます。
逆に言えば、被相続人であるご主人が亡くなってから3か月が経過すれば、原則として、相続したものとみなされて、その後は相続放棄できません。
ただし、3カ月以内であっても、相続したものとみなされる行為をした場合にも、もはや相続放棄はできません。
ですので、相続放棄をするなら、被相続人が亡くなってから3か月以内にしなければならないのですが、以下の場合には、相続人が亡くなってから3か月以内であっても相続放棄ができないのです。
相続人が相続財産を処分した場合
法律の条文上は、
「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条 に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。」
と規定されています。
では、その「処分」とは何か?が問題となります。
典型的なのは、被相続人の不動産の名義を相続人が自分の名義に変更する行為や、預金を引き出して使ってしまう行為等があります。
個別にはいろいろな問題がありますが、要するに、
相続人が相続財産を自分のもののように使ってしまう行為
をすると、それが相続する意思表示となってしまう、と考えるとよいでしょう。
本件では、ご主人のクレジットカードが支払い用になっていることを知らずに、インターネットを使い続け、衛星放送(CS)を視聴し、ETCを使って高速道路に乗っていた行為が問題となります。
これをどう見るか?
クレジットカード会社から見れば、亡くなった方との立て替え契約というのは成立しないはずなのに、生きている者と思い込んで、立て替えを実行してしまったということになるので、契約は無効になります。
そして、クレジットカード会社が立て替えたお金は、不当利得として返還してもらわなければなりません。
インターネットを使い、衛星放送(CS)を視聴し、ETCを使って高速道路に乗た人が支払うべきことになります。
他方で、ご主人名義のクレジットカード云々は抜きにして、あなたが、インターネットを使い続け、衛星放送(CS)を視聴し、ETCを使って高速道路に乗っていた行為は、本来、タダでできるはずの行為ではないということまではご理解いただけましたよね?
難しいことを言うと、その法律構成は、不当利得なのか?不法行為になるのか?という問題はあります。
また、そもそも、クレジットカード会社は、あなたに請求するのでよいのか?
それとも、クレジットカード会社は、一旦立て替えて支払ったものの、インターネットプロバイダ会社、衛星放送(CS)会社、東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)等の高速道路会社から返してもらうのか?
そして、その後に、 インターネットプロバイダ会社、衛星放送(CS)会社、高速道路会社等があなたに請求するのか?
等々、いろいろ考えられますが、それらの支払い義務は相続放棄とは別問題であると考えることになります。
なので、結論ですが、ご主人名義のクレジットカードが支払い用になっていることを知らずに、インターネットを使い続け、衛星放送(CS)を視聴し、ETCを使って高速道路に乗っていたからといって、
相続放棄ができない → キャッシングの支払い義務を負う
ということにはならないです。
速やかに、相続放棄の手続きをすすめるべきです。
相続財産の全部又は一部を私的に消費
法律の条文上は、
「相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。」
と規定されています。
これも、相続放棄ができなくなる、というか、「相続した」とみなされるケースです。
これは相続放棄をした後の話です。
これから相続放棄をなされると思いますが、相続放棄したからと言って、相続財産に手をつけるとまた同じことになってしまいますので、ご注意ください。