【ご相談内容】相続放棄の期限について
父は、5年ほど前に、経営不振により会社をとじまして、その際に、従業員は全員1か月分の給与を払って解雇しました。
自宅も含めて、工場、倉庫、駐車場等、不動産は、全部売却して、銀行、リース会社も含めて負債は全部その時点で、なくなったと聞いておりました。
そして、その父が昨年、亡くなりましたが、今になって、保証会社というところから、私(長男)と弟宛に返済計画書なるものを送ってきました。
「これに記入して、早急に返送してほしい」
と書いてあります。
ですが、遅延損害金を含めて、すごい金額になっており、
「そもそも、父が存命の間になぜ、その旨の連絡をしなかったのか?」
(もちろん、父がその連絡を受けていて隠していた可能性も否定できませんが)
「むしろ、父が亡くなるのを待っていたのではないか?」
等々、とても不審に思っております。
今更ながら、どうしたものでしょうか?
ちなみに、父が亡くなった当時から約1年間、遺産分割も財産放棄も何もしておりません。
そもそも、何の財産も借金もないものと思っておりましたから。
【ご回答】弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明
相続放棄の期間制限
相続放棄というのは、いつでもできるものではなく、相続開始があったことを知った日から3か月以内、にしなければならないという期間制限があります。
ちなみに、この3か月は熟慮期間と呼ばれております。
被相続人(亡くなった方)の資産状況や借金・負債の状況をよく調査したうえで、その名の通り、
【相続するか、相続放棄するかを、「熟慮」する期間】
です。
ですが、その被相続人の方が
・いろいろな種類の財産を持っているとか
・海外に資産を持っているとか
・会社の株を持っているけどその計算がややこしいとか
いろいろな事情により、
「とても、3か月では時間が足りない!」
という方もいらっしゃると思います。
そういう方の場合には、家庭裁判所に対する申立てにより、3か月の熟慮期間を伸長することもできます。
熟慮期間経過後の相続放棄
ただし、本件では、
「そもそも、何の財産も借金もないものと思っておりましたから。」
とおっしゃっているところから、当然ながら、熟慮期間の伸長を求めるということもしていらっしゃらないということになります。
ですので、相続放棄ができる期限は過ぎており、原則として、これから相続放棄をすることができません。
相続放棄期限の3カ月はいつからカウントされるのか?
ですが、3カ月とは、いつから起算(カウント)するのでしょうか?
法律(民法)上は、
”相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。”
と書いてあるのであり、
「被相続人が死亡した時から」
とは書いてありません。
もちろん、
「『被相続人が死亡した』時に、相続が始まることは分かるから、同じことだ」
と思われるかもしれませんが、
裁判上は、この
「自己のために相続の開始があったことを知った時」
というのは、もう少し、主観的に考えられています。
つまり、熟慮期間経過後に、相続放棄をしたいという場合には、多くの場合、ある日突然、意味もなく相続放棄をするわけではありません。
・債務が発覚したり
・請求されないと思っていたものが請求されたり
したことから、そこで、初めて、慌てて相続放棄をしようとするのが通常です。
そこで、
”自己が取得すべき相続財産がなく、通常人がその存在を知っていれば当然相続放棄をしたであろう相続債務が存在しないと信じており、かつ、そのように信じたことについて相当の理由があると認められる場合”
言い回しが難しいですが、
「普通ならそんな借金・債務があれば、相続放棄するよね?と思われる債務がないと思っていた場合」
には、
「相続しなければならない債務があることを知った時、あるいは、それが普通なら分かるだろうという時」
から、熟慮期間がカウントされる、ということになっております。
ただし、これは判例上の解釈なので、ケースごとに取り扱いが変わってくる可能性はあります。
いずれにせよ、本件では、上記の判例を踏まえて、事例に合わせた説明文ないし実際の弁明も含めて、相続放棄の手続を進めるべきです。
何か、証拠となるものがあるのであれば、それも添付する必要があります。
また、裁判所から期限を過ぎてしまった事情について、文書で質問が来たり、呼び出されて事情を説明する必要があることもあります。