【ご相談内容】限定承認と相続放棄のどちらを選択するか

母が亡くなりました。

父とはすでに離婚しているのですが、母は、ずっと、父から金をたかられておりましたので、現金はまったく残っていません。

ですが、母の名義のマンションだけはなんとか売らずに最期まで頑張りました。

問題は、父です。

父は、母に直接的に金をたかっていただけではなく、

「金がない」

と断ると、

「クレジットカードを作って送ってよこせ」

とほとんど脅迫まがいで言ってきていました。

私は、一緒には住んでいないので

「何かあれば警察を呼べ」

と言っていたのですが、

「そこまではできない」

などと、少しずつ金を渡しては、なんとか対応していたようです。

母が亡くなったので子供の私にも当然、何か言ってくると思います。

ですが、そんなのは当然、無視します。

ただ、母も父に金をたかられていた関係で借金があるかもしれません。

母が渡していた金は、クレジットカードのキャッシングや銀行カードローンで工面していたかもしれません。

そういうわけで、母に借金があるのかないのか、あるとしていくらあるかは分からない状況です。

知り合いから、相続した遺産以上に借金を負うことがない制度として、限定承認という手続きがあると聞いたのですが、相続放棄とどう違うのか、どういう制度なのか、手続きのやり方、デメリット等を教えてください。

【ご回答】~弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明~

限定承認とは?

限定承認とは、相続財産より相続債務が多い場合であっても、相続財産の範囲内でのみ、相続債務を負うこととする手続きのことを言います。

相続財産より相続債務が多い場合には、普通に考えれば、そのまま相続すれば経済的にマイナスで相続することによって損しますから、相続放棄をすることになります。

※相続放棄とは、相続財産も相続債務も全てを放棄する手続きです。

また、相続債務より相続財産が多い場合には、そのまま相続すれば、額とはともかくプラスにはなりますから、相続してその中から相続債務の支払いを行い、残りの財産を取得すればよいだけです。

ですので、そのプラス・マイナスの計算の結果、

相続放棄するか

(単純)相続するか

を決めればよいのです。

ただ、相続財産があるかないか、あるとして何がいくらあるのかは、通帳を見たりすれば割と分かりやすいですが、相続債務というのは、事前に一緒に暮らしているなどでもない限り、分かりにくいものです。

そこで、一応、プラスの見込みではあるけど、万が一、相続債務の方が結果として多かったとしても、損をしないように予防線を張っておく手続が

「限定承認手続き」

なのです。

限定承認の手続きの流れ

1)裁判所に対する限定承認の申述(しんじゅつ)

裁判所所定の書式に従って作成した申述書に財産目録等の必要書類を添付して管轄の裁判所に提出します。

これが裁判所に対する限定承認の申述です。

なお、相続放棄と異なり、相続人全員で申述する必要があります。

2)公告・催告

次に、相続債務につき債権者に対して、債権の届け出(いくらの債権があるかどうかの報告)を求めます。

ただし、もともと、「○○銀行からお金を借りている」等、その債務の債権者が分かっている場合には、直接、その銀行に対して、債権の届け出を求める(催告する)ことができますが、どこかに知らない債権者がいるかもしれません。

それに、そもそも、債権者を全て把握できているのであれば、何も限定承認などしないで、事前に、相続するか相続放棄するか決めることができます。

ですが、借金があるかもしれないけど、債権者が誰だかも、どこにいるかも分からないので、限定承認をするわけです。

そこで、そのような何処かにいるかもしれない債権者に対しては、

公告

と言って国の広報誌みたいなものに、「もし債権者いるのであれば名乗り出てください」と掲載する手続きをするのです。

これを見て本当に名乗り出てくる人がいるのかどうかは聞かないでください。

3)相続財産の換価

相続財産の中に、不動産や車等がある場合には、その不動産等を売却して現金化します。

ですが、自分(相続人)も住んでいる自宅不動産等、第三者に売却したくない場合もありますよね。

そのような場合には、正当な価格で相続人が購入することもできます。

ただ、相続人自らが自分で買うこともできるとすると、不当に安く購入するおそれもあります。

相続人としては、身銭を切るわけですので、なるべく安く買いたいと思うのは自然の人情です。

ですがそれでは、債権者が損をする可能性もあるので、そのようなことがないように裁判所の鑑定を入れて、正当な価格を計算することが必要となるのです。

4)弁済

こうして、現金化作業を終えたら、届け出てきた債権者に債務の弁済(支払い)を行いますが、支払う順序は次のような順序になります。

① 抵当権等担保権や根抵当権等の優先権をもつ債権者

② 知れたる債権者及び期間内に申出があった一般債権者

③ 申出があり、又は知れたる「受遺者」

この順番になりますが、問題は、さらに残余財産があれば、

申出をせず、又は知れなかった債権者及び受遺者

に対しても、弁済義務があるとされていることです。

したがって、いつ出てくるか分からない債権者等のために、相続財産の残りをとっておかないといけないという訳です。

ただし、なんからの借金等であれば、そもそも貸付債権の消滅時効があるはずですから、5年ないし10年経てば使っても安心と言えるかもしれません。

限定承認のデメリット

デメリットは特にありません。

・手続きが複雑だ

・費用がかかる

そういうことをデメリットであると言っている人もいるようですが、それは、相続放棄と比べて言っているのでしょうか?

相続放棄とはそもそも性質が違うので、手続きも費用も違うのは当然です。

そういう手続きなのです。

ただ、繰り返しになりますが、

・相続財産より相続債務が多い場合には、相続放棄します。

・相続債務より相続財産が多い場合には、相続してそ相続債務の支払いを行い、残りを取得します。

どっちかよく分からないけど、相続財産の残りがあればぜひ取得したい、というときにのみ限定承認制度を使う意義があるのです。