【ご相談内容】相続放棄と相続分の譲渡について

私は、18歳の大学に入るときに新潟から上京して、以来、年に一度、実家に帰るだけの生活をしてきております。

実家田舎のことは、妹2人にずっと任せてきておりますので、父の生前から、常に、

「親父がもし亡くなったら、俺は相続放棄するから、よろしく頼む」

と言って来ました。

ただ、私が相続放棄をするというのは、実際に結婚もしないで実家の面倒を見てくれたのは下の妹に私の相続分を譲ってあげたいという意味なので、相続放棄をしても、どうなのかなあ、とも思っていました。

その上で、今回、親父が亡くなりました。

先日、友人と飲んでいたときに、この話をしたのですが、その友人は、自分の父親がなくなった際、

「相続分の譲渡」

というのをしたそうです。

ですので、この相続分の譲渡というのをすれば、相続放棄の代わりになるのではないかと思い、そのあたりを教えてください。

もちろん、私は、有言実行するつもりなので、相続放棄をするのでも全く構いません。

【ご回答】弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明

相続分の譲渡とは

相続分の譲渡」とは、相続人が有している相続割合を承継する権利・資格を譲渡することを言います。

例えば、法定相続人が兄弟姉妹3人であるならば、各人が相続分として、3分の1ずつの相続権を有しておりますが、そのうちの1人が他の相続人に「相続分の譲渡」を行うと、譲り受けた方の相続分は、3分の2になります。

相続分の譲渡については、特に、決められたやり方があるわけではなく、相続分を譲り渡す人と相続分を譲り受ける人との合意があればよいのです。

ですので、おっしゃる通りで、あなたが下の妹さんに、あなたの「相続分の譲渡」をすれば、あなたが相続財産についての権利を放棄した恩恵を下の妹さんだけが、 受けることができます。

相続分の譲渡と相続放棄

(1)相続分の譲渡と相続放棄の共通点

「相続分の譲渡」と「相続放棄」は、どちらも、相続財産を承継しない点で共通しております。

(2) 相続分の譲渡と相続放棄の意味

相続分の譲渡」は、特定の人(他の相続人でも第三者でも可能)に対して、自分の相続権を譲渡するものです。

相続放棄」は、単に自分の相続資格を放棄するもので、最初から、その相続人がいなかったものとして、相続割合が計算されます。

(3)相続分の譲渡と相続放棄の借金との関係

「相続分の譲渡」は、包括的な承継なので、プラスの財産もマイナスの財産(借金・債務・負債)も譲渡の対象にはなりますが、被相続人の債権者に対してはそのことをは主張できません。

「そのことを主張できない」というのは、債権者に対して、

「私は相続分の譲渡をしたので、もう財産も借金も関係ありません。」

とは言えないのです。

したがって、被相続人の債権者は、相続分の譲渡があった後でも、本来の相続人に返済等の請求をすることができます。

「相続放棄」は、 そもそも、 その相続放棄をした人を遡っていなかったことにする制度です。

ですので、相続放棄が有効に行われれば、マイナスの財産(借金・債務・負債)も負うことはありません。

(4)相続分の譲渡と相続放棄のやり方

「相続分の譲渡」は、譲り渡し人と譲り受け人の間の譲渡契約であるので、特別な様式も必要とされません。

「相続放棄」は、裁判所に対してなす行為であり、相続放棄申述書を提出するなど、様式も決まっております。

相続分の譲渡と相続放棄のどちらにすべきか?

もし、あなたがお父様の借金・負債・債務等を気にする必要がない状況であれば、相続分の譲渡でよろしいのではないでしょうか。

ただし、 いくら口約束でも有効だとは言っても、 不動産等がある場合には、不動産の登記をする必要がありますので、相続分の譲渡について書面化する必要があります。