【ご相談内容】換金行為を定めた破産法の条文
昨年まで新潟市内で仕事をしておりましたが、今年に入って、阿賀野市に帰ってまいりました。
実家の農業を助けながら、阿賀野市内の工場で働いております。
新潟市内に住んでいた時には、「せどり」というものをやっていました。
これは、要するに、店舗やネットから商品を安く買って、アマゾン(amazon)やヤフオク(ヤフーオークション)で、利益をのせて高く売るのです。
いろんな商品の転売をする方法がありますが、私は、いわゆる家電せどり、というものをやっていました。
その名の通り、家電量販店やヤフオクで新品型落ちを仕入れて、高く売っていたのです。
一時期、デジカメの型落ちを量販店を回って大量に購入しましたところ、信じがたいことですが、その商品について、もっと安く大量に販売するネットショップができてしまい、
私が購入した値段では、全く売れなくなってしまいました。
ただし、仕入れ代金は、常に、銀行カードローンを使って行っていましたので、いつまでも在庫として抱え続けることもできず、赤字覚悟の損切で、安く売ってしまいました。
これによって生じた赤字・損失を取り戻さなくてはと焦ってしまい、普段なら買わないような商品にまで手を出すようになってしまいました。
しかも、カードローンも借り入れ限度額いっぱいになってしまい、商品購入は、クレジットカードですることになりました。
大量にクレジットカードで購入はしたものの、正直言ってあまり詳しくはないPC関連の商品を買ったばかりに、仕入れ価格を完全に読み違えてしまい、大量の在庫を抱えて、結局、投げ売りのような形になってしまいました。
もう、破産するしかないと思っております。
しかし、同じように、せどりで借金地獄に陥った人の体験記みたいなのをみていたら、このせどりが、「換金行為」になるために、破産もできないという話が載っていて心配になりました。
換金行為の意味を調べたのですが、なんで、これが駄目なのかがよく分かりません。
個人再生の方がいいという意見もあったのですが、そもそも、自分の置かれている位置が見えません。
【ご回答】~弁護士(新潟市・新潟県)から~
個人再生にはない、自己破産特有の免責不許可事由~換金行為とは?
「換金」とは、その名の通り、何かを「金」に「換」える「行為」のことです。
(1)金融会社(と称する街金)がやるタイプ
「クレジットカードの現金化」
「ショッピング枠の現金化」
などの広告を見たことがないでしょうか?
これは、なかなか現在のクレジットカード会社のシステムの間隙をついたやり方です。
例えば、ブランドショップを開業している体で、カバンを2,3個売っているようにします。
あなたは、お店にクレジットカードを持っていくだけです。
そこで、クレジットカードで10万でカバンを買います。
そのお店には、クレジットカード会社から10万円が立て替え払いで入ってきます。
そして、あなたはカバンを即座にそのお店に中古品として、買取に8万円で出します。
2万円は損しておりますが、「現金」8万円が手に入ります。
もちろん、次に、そのクレジットカード会社からそのかばん代金10万円についてあなたに請求があります。
そこで、きちんと決済されれば、それはそれで何も騒ぐ人はおらず、そのまま流れていく話ではありますが、こんなことを続けていけば、2万、3万、とどんどんつじつまが合わなくなっていきます。
最後は、債務が積もり積もって、支払いができなくなります。
(2)自分で買取に持ち込んだり、転売するタイプ
これは別に、自分でもできます。
インターネットで販売されている商品やリアル店舗で売られているアイテムを、クレジットカードで購入して、自分で、買い取り業者に売ったり、ネットショップで販売したりします。
ネットショップを楽天等で開設してもよいですし、アマゾンやヤフーオークション・メルカリでもよいです。
ただ、こちらも確実に売り切るためには、極端に値段を下げた投げ売りのような形をとってしまうと、やはり、換金行為に近くなっていきます。
ただ、典型的なのは、やはり、手間をかけないで、購入、即、買い取り業者に売る、という形です。
これが換金行為とされます。
個人再生にはない、自己破産特有の免責不許可事由~換金行為を定めた条文
実は、自己破産を定めた破産法には、免責不許可事由として、「換金行為」と定めてあるわけではないのです。
(1)破産手続の開始を遅延させる目的
破産法の条文には、
”破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと”
と書いてあります。
「破産手続の開始を遅延させる目的」
と書いてありますので、
換金行為をする時点で、
「よしよし、これで、破産手続きの開始が遅くできるぞ」
という意識・意思がなければならないはずです。
普通、こんな認識をもって換金行為をする人はいないと思います。
そうしますと、この条文に換金行為がひっかかるとは思えないのですが、
「破産手続の開始を遅延させる目的」
というのを、
『返済不能の状態であるのに、破産になるのを遅らせるために』、
というような形で、かなり強引に解釈しているのです。
結論として、破産を申し立てた場合に、
「換金行為みたいな延命措置ないしは悪あがきをしないで、破産手続きをもう少し早くしていれば、被害者(クレジットカード会社のようなとりっぱぐれた債権者)は出なかったはずだ」、
「つまり、換金行為をしたおかげで、破産手続きが遅くなったんだ」、
「換金行為により破産手続きが遅くなることは分かっていただろう」、
という論法です。
無茶な取り調べみたいな話ですが、一旦破産手続きに入ってしまうとこういう論法がまかり通ります。
ただ、支払い不能・債務超過でも、破産手続きに入るとは限らないですよね?
破産手続きをとらないで、それこそ、
民事再生(個人再生)をする人、
個別に債権者とリスケ(任意整理)をする人、
そもそも、何もしないで、どこかに行方をくらましてしまう人、
等がいます。
その場合には、そもそも、破産手続きの開始の遅延云々は問題にならないので、換金行為をした後に破産手続きをする以上は、
「破産手続の開始を遅延させる目的」がなかった
とかいう抗弁・言いわけを出そうとか考えても無駄に近いです。
裁判所も管財人も聞いてくれません。
(2)信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分
「信用取引により商品を買い入れて」とは、要するに、現金決済ではなく、買掛けで商品を買うことです。
クレジットカード払いにするのも、信用取引です。
デビットやスイカは現金払いと同等です。
「著しく不利益な条件」とは、程度問題ですが、通常は、新品で購入して、転売すれば、目減りしますから、まずもって、こちらも、
「新幹線回数券を90%で買い取ってもらったが10%しか目減りしていない!」
「『著しく』不利益とまでは言えない!」
と言っても、
「10%とは、著しいとしか言いようがない」
と管財人の意見が返ってくるだけです。
裁判所もそれを否定したりはしません。
(3)換金行為と商売の失敗との違い~裁量免責
結局、一番、重要になるのは、そもそも、
換金目当てでクレジットカードを使って商品を買ったのか、
商売の過程で在庫を抱えてしまったのか、
という点に尽きると言えます。
あなたの場合には、少なくとも、商売の履歴があるわけですから、そのことと、
反省を示せば、自己破産手続きにおける管財人からの厳しい追及は覚悟のうえで、最終的には裁量免責が得られる可能性があると思います。
裁量免責とは、免責不許可事由があったとしても、裁判所が本人の反省とか、金銭拠出とか、その他の事情を考慮して、
「本当は、免責不許可であるけれども、特別に、免責を認めてあげます」
というものです。
ただ、個人再生の場合には、以上のことは、一切、そもそも問題にならない、というわけです。
手続きをスムーズに進めることを優先に、個人再生を選ぶ方が多いというのはそういうことです。
実際、管財人から、何度も呼び出しを受けたり、細かなお金の流れを追及されたりして、
「こんなに大変なら、個人再生にすればよかったです。」
と泣きをいれる人もいます。
~いかがでしたでしょうか。以上、弁護士(新潟市・新潟県)から、個人再生にはない、自己破産特有の免責不許可事由である換金行為とは?~換金行為を定めた破産法の条文について、ご説明致しました。~