【ご相談内容】相続放棄期限についての最高裁判例について

随分、以前に父が亡くなったのですが、そのときの遺産といえるものは何もありませんでした。

そして、その際に、税理士さんに

「相続の手続きはいつまでにしなければならないですか?」

とお尋ねしたところ、税理士さんから、

「お宅の場合には相続税の申告が必要となるような財産はないと思いますので、その場合には、何もしなくても大丈夫です。」

と言われました。

ところが、最近になって、父が、とある台湾人の方からお金を借りていることがわかり、その台湾人の代理人という方から、郵便が送られてきました。

そこには、父の借用書のコピーが添えられており、その筆跡は確かに父のものでした。

しかも、慌てて、父の預金通帳を探して確認してみたところ、その台湾人の方からなんと2500万円もの入金の履歴がありました。

しかも、2500万円が入金されてから、すぐに全額引き出されています。

ただ、なんのために、このお金を使ったのかがまるで分かりません。

いずれにせよ、この問題に関わりたくはないので、相続放棄をしようと思ったら、裁判所の人から、相続放棄の期限は3か月以内だから、私と私の母の相続放棄は受け付けられないと言われてしまいました。

ただ、裁判所の人からは、

「3か月を過ぎたことについて理由があるのであれば、弁護士に相談して、改めて手続きしなおしたほうがいい」

とも言われました。

相続放棄の期限の3か月について、その延長ができるとも知らずに、3か月が過ぎてしまっていたのです。

相続放棄の3カ月の期限を過ぎたら絶対に相続放棄はできないのでしょうか?

【ご回答】~弁護士〔新潟市(新潟県)〕からのご説明~

相続放棄の3か月は被相続人が亡くなったことを知った時から起算

相続放棄の申立て期限である3か月は、自己のために相続の開始があったことを知った時から起算(カウント)されます。

そして、

「自己のために相続の開始があったことを知った時」

というのは、

①「相続が開始したこと」

及び

②「自己が相続人となったこと」

を覚知した(知った)時とされております。

そして、①「相続が開始したこと」 というのは、その被相続人の死亡により開始しますから、結局、

その被相続人の死亡を知った時

①「相続が開始したこと」を覚知した時となります。

自己が相続人になったことの意味

次に、②「自己が相続人となったこと」というのは、

「被相続人の配偶者である」

あるいは、

「被相続人の子供である」

とかいう場合、被相続人が死亡すれば、自分が(法定)相続人であるということが分かりますよね。

ですので、あまり、この「自己が相続人となったこと」がいつであるかは問題になることがありません。

ただ、例えば、ある人が相続を放棄したことによって、自分に相続の順番が回ってきたような場合には、この要件が問題になります。

つまり、三条太郎(仮名)さんに奥さんと子供がいて、三条太郎さんが亡くなったけれども、その奥さんも子供も相続放棄した場合です。

次の相続順位として、三条太郎さんの兄弟に相続権が回ってきますが、三条太郎さんが死亡していたことは知っていたとしても、その奥さんや子供が相続放棄したことを知るまでは、

「自己が相続人となったこと」

は分かりませんので、それまでは、3か月の期間は進行しません。

「自己が相続人になったこと」が問題となる場合

ここまでは、通常の場合ですが、次に、例えば、

三条太郎さんが、妻と子供を残して、家を飛び出していたような場合を考えてみます。

ある日、警察から連絡があり、

「実は、お宅のご主人(父親)である三条太郎さんが亡くなりました。」

と知らされた場合、

①「相続が開始したこと」

及び

②「自己が相続人となったこと」を覚知することはできますよね?

それにもかかわらず、

「何を今更。」

「私たちには関係ないから。」

と放置しておけば、3か月の期間はどんどん進行します。

そして、ある日突然、

故 三条太郎氏 相続人 各位

という宛名で、サラ金から督促状や請求書が届いてしまったとします。

そこで初めて、被相続人に借金があったことを知りますが、すでに、3か月を経過しているので、妻や子供が相続してしまっています。

その場合に、

「3カ月を過ぎているし、しかも、熟慮期間の延長もしていないので仕方がない。」

「もう、相続してしまっているので、借金を相続人として支払ってください。」

というのは過酷です。

3カ月の起算についての最高裁判例

そこで、最高裁においては、

”3か月以内に相続放棄しなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、そのように信ずるについて相当な理由があるときは、熟慮期間は、相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算する”

されました。

ですので、上記のような事例でも、

三条太郎氏が家を飛び出しており、それ以前も、仕事が続かなかったので、どうせ、相続するべき財産などありはしないだろう、と漠然と思っていたために何もしないで3か月が経過したのである、

という事情等を説明すれば、裁判所は相続放棄の熟慮期間はまだ経過していない、という判断のもと、相続放棄を受理してくれる可能性が高いです。